風力発電装置

更新日:2022.04.05

風力発電装置の軸受を24時間/365日体制でモニタリング
風力発電装置のダウンタイム削減に貢献する

風力発電装置用状態監視システム
「Wind Doctor®

風力発電装置の異常を早期に検知して
最適なメンテナンスを提案

NTNは長年に渡り風力発電装置用の専用軸受を供給し、風力発電装置の大型化や高性能化に貢献してきた。
この間に蓄積された軸受に関するノウハウを活かして、開発されたのが風力発電装置用状態監視システム(CMS:Condition Monitoring System)「Wind Doctor®」である。その目的は風力発電装置の稼働率向上であり、状態監視に加えて関連サービスも提供している。
風力発電装置では従来、運転中の振動や異音の確認が難しいため、故障の兆候が見逃されがちであった。その結果として予想外の故障が発生し、補修工事などが必要になると、停止期間が長期化し事業者の損失が大きくなる。
こうした事態を防ぐために考えられたのが、稼働中の風力発電装置にセンサを設置し、データ計測により運転状況をモニタリングするシステムである。「Wind Doctor®」は、故障の兆候を検知するために開発されたCMSであり、得られた計測データを解析すれば、異常を初期段階で把握できる。異常箇所の処置に必要な準備を予め整えておけば、最適なタイミングでメンテナンスを行えるので、ダウンタイムをミニマムに抑えられる。
とはいえ洋上や山中にある風力発電装置に設置可能なシステム開発はもとより、データ解析もゼロからのスタートであった。風の強い過酷な環境下でのシステム設置も含めて、開発プロセスは決して容易なものではなかった。

  • 齊藤 仁

    齊藤 仁

    産業機械事業本部
    ソリューションビジネスセンター

  • 川上 博貴

    川上 博貴

    産業機械事業本部
    ソリューションビジネスセンター

  • 小川 泰輝

    小川 泰輝

    産業機械事業本部
    ロボティクス・センシング技術部

風力発電装置の稼働率向上に貢献する
「Wind Doctor®

発電装置内部で駆動装置の状態を監視

風力発電装置が設置されるのは、風の強い洋上か山中である。高さ約80メートルぐらいのタワーの上に、風車と各種の機器を収めたナセルと呼ばれるボックスがセットされる。
ナセル内には主軸、増速機、発電機、制御ユニットなどが詰め込まれていて「Wind Doctor®」もその一角に収められる。人による状況確認の頻度や作業工数に限界があるため、「Wind Doctor®」が発電運転中の風力発電装置の状況を遠隔監視する。具体的には、駆動系の軸受や歯車周辺のハウジングに設置したセンサからデータを収集し、蓄積されたデータを解析して異常兆候を事前に把握、不具合のある部位を特定する仕組みだ。

収集データを定期的にレポートにまとめ、顧客と共有

「Wind Doctor®」によって収集されたデータは、インターネット経由でクラウドサーバに収集・蓄積される。
データベースに納められた計測データは、NTNオリジナルの遠隔監視分析ソフト「モニタリングクライアント」によってチェックされ、データが異常値を示すとアラームが発信される。収集データは顧客サイドでも共有できる。監視分析ソフトに備わる時系列での推移比較、監視部位ごとのレベル把握など豊富な機能によって解析された結果は、レポートにまとめられ定期的に顧客に報告される。過去には増速機の異常を早い段階で検出し、交換準備を整えた上で作業に着手した結果、発電のダウンタイムを最小限に留めた事例がある。

風力発電装置用状態監視システム
「Wind Doctor®

風車ドライブトレイン(主軸、増速機、発電機)に取り付けられたセンサの振動データなどにより軸受や歯車の損傷兆候を検知する状態監視システム(CMS)。NTNでは、本商品による風力発電装置用軸受のモニタリングと診断サービスを展開。

「Wind Doctor®」の構成

風力発電装置から収集したデータは、クラウドサーバに収集・蓄積される。サーバ内での各種信号処理や分析により、ドライブトレインの要素部品の異常を検出し、あらかじめ設定した連絡先に自動通知する機能を持つ(自動1次判定)。
また、NTNのエンジニアによる詳細分析で損傷兆候や変化点を抽出した場合には、サービス契約者に対して推奨事項を交えたレポートなどにて情報伝達する。

「Wind Doctor®」の活用により、さらなる運転稼働率向上へ

計測データの分析から報告までの効率化に挑戦

「Wind Doctor®」では主軸、増速機、発電機の軸受などに加速度センサが設置され、軸受の振動データを収集して分析する。測定データは他にも発電出力や回転速度がある。
「例えば、正常な風車と軸受の一部に損傷のある風車では、振動値が微妙に変わってきます。その違いから起きている現象を解析するのです」と、その基本的なメカニズムを齊藤(産業機械事業本部 ソリューションビジネスセンター)は説明する。仮に軸受の一部が損傷すれば、転動体が損傷部に当たるため衝撃的な波形が発生する。従って波形チェックにより、異常の有無を確認できる。センサによるによる計測は一定サイクルで行われる。計測値は時系列でグラフ表示され、変化が見える化される。
その監視について小川(産業機械事業本部 ロボティクス・センシング技術部)は「当初は、事業者さんの方で波形の分析までやろうとするケースもありました。ところが実際にやってみると、分析はそれほど簡単ではないとわかり、我々に依頼されるケースが増えたのです」と振り返る。
軸受の損傷分析には、専門的な知見が求められるからだ。波形分析により、周波数の特徴から軸受の損傷箇所を推定することができるが、判断が難しいケースもある。
「Wind Doctor®」の提供開始から約10年を経ており、これまでに相当なデータが蓄積されている。今後はこのデータを機械学習させて、状況判断に活用する計画も視野に入っている。
「とはいえ異常値は、強風や電気的な故障などでも発生し、その正確な見極めが求められます。人の経験値を超えるのは、容易ではありません」と齊藤は今後の課題を語る。

イベントレコーダへの追加機能開発

「Wind Doctor®」は基本的に、一定のサイクルでデータを収集している。しかし、トラブル発生時には計測のインターバルを短くしたほうが、よりきめ細かく状況を把握できる。そこで追加されたのがイベントレコード機能だ。何らかの外乱や基準値超えが検知されると、その時点から一定時間の計測データを連続記録する。「特に問題となるインシデントが、落雷です。風車に落雷した際には、可能な限り速やかに検知したいとの要望があり、イベントレコーダへの追加機能の開発に取り組みました」と、川上(産業機械事業本部 ソリューションビジネスセンター)は新機能開発の経緯を説明する。
ただし、その開発は予想外に困難なプロセスとなった。なぜなら落雷を検知するシステムは他社製であり、その独自規格との連携が求められたからだ。システム開発は、事業者と落雷検知システムのメーカを交えた3者の話し合いから始まる。事業者の要望に答えるシステム開発には、メーカとの細部に到るまでのすり合わせが欠かせない。
「必要なのはプログラム開発などのソフト面だけではありません。スペースの限られたナセル内で、落雷検知システムも組み込んだ「Wind Doctor®」を、どこに・どのように設置するのか。ハード面の開発も必要であり、完全にカスタムメイドの仕様となります」(川上)
初号機の開発には半年以上の時間が必要だった。ただし事業者の本質的な要望は、単なる落雷検知ではなく、落雷時の迅速かつ的確な対応にある。

徹底した「いじわる試験」で完成度を高める

風車への落雷は、一種の異常事態である。落雷の衝撃により、風車全体がさまざまなダメージを受ける。落雷を検知し、その瞬間の振動を計測するシステムには、万全の強靭さが求められる。
「落雷によって検知システムまでダウンしてしまった、では話にならないわけです」そう語る小川らが開発で徹底したのが、いじわる試験だった。この試験は、実際の使われ方や環境を想定した上で、それよりもはるかに過酷な条件を設定して行われるテストである。
実際には起こり得ないケースを想像する行為そのものが、まさに想像を絶する難しい課題となる。そんなときに頼りになるのが、経験豊富なベテランの知見だ。落雷検知システムの制作に際しても先輩たちの協力を得て、徹底した試験が繰り返された。考えうるトラブルをひたすらリストアップしていく作業は、裏を返せば制作するシステムをきめ細かくチェックする作業となる。このプロセスが「とてつもない学びの機会となった」と小川は振り返る。
通常なら見過ごしてしまったり、見逃してもおそらくは問題のない項目までをリストアップした上で「万が一、そこにトラブルが起こったらどうなるか」と考える作業は、極めて有効な思考訓練となるのだ。この訓練を通じて養われるのは、ものごとを限りなく精緻に捉えて、考えを突き詰める能力だ。培われた力は、特に予想もしないトラブルが発生したときに役に立つ。そんなときでも想定しうる限りのトラブルを考えた上で、それをひとつずつチェックしていけば真の要因に行き当たる可能性が高くなる。
実際、いじわる試験に携わった小川は「ものを見るときに、視点を細分化できるようになったと実感します。こうしたノウハウは、先輩から自分たち、さらには後に続く人たちにも引き継がれていく。こうした点が当社の強みでもあると実感しました」と自らの学びをまとめた。

「Wind Doctor®」と雷検知システムとの連動

CMSを活用し、軸受のトータルソリューションを提供

再生可能エネルギーの市場拡大に貢献

脱炭素社会への転換が急がれる中、重要課題となっているのが風力発電を含む再生可能エネルギーの利用拡大である。従って風力発電においては、発電装置の異常を早期に検出し、適切なメンテナンスを行ってダウンタイムを抑える必要がある。そのカギを握るのが「Wind Doctor®」と一連のシステムである。ESG経営を進めるNTNが設定する今後の重点項目の中には、環境に対するポジティブインパクトの強化が挙げられており、その実現に貢献するのが再生可能エネルギーの安定供給である。その意味でも「Wind Doctor®」の進化は、今後の社会にとって大きな意味がある。

目指すのは軸受のトータルソリューションプロバイダ

「Wind Doctor®」によって得られるノウハウは今後、その他のCMS装置での活用が視野に入っている。軸受の異常検知、分析から修復までのトータルソリューションは、軸受が関わるあらゆる状況に展開可能だ。たとえば工作機械等の軸受のセンシングによる余寿命予測からの早期交換などは既に視野に入っている。
「意外かもしれませんが『Wind Doctor®』は当社の中でも最先端に位置する事業部門です。強風が吹きすさぶ海上や山中など過酷な環境でも安定稼働する商品づくりで得たノウハウは、多方面に応用可能ですから」と、小川は今後の展望で締めくくった。

  • ※取材内容、および登場する社員の所属はインタビュー当時のものです。