自動車

更新日:2026.02.04

EV時代に求められる高効率の
等速ジョイントを世に広く送り出す

高効率固定式等速ジョイント「CFJ」の量産化

環境負荷低減に貢献する次世代の等速ジョイントの量産化

自動車のエンジンやモーターからの動力をタイヤに効率よく伝えるための「等速ジョイント(CVJ:Constant Velocity Joint)」は、NTNが1963年に日本で初めて量産に成功して以来、グローバルで長く業界をリードしてきたドライブシャフトの構成部品である。その生産を開始してから半世紀以上の間にNTNは、さまざまな商品を世に送り出してきたが、2012年、CO2の排出量削減や省エネ化に貢献すべく、世界最高水準の伝達効率を持つ高効率固定式等速ジョイント「CFJ」を開発した。CFJとは独自の「スフェリカル・クロスグルーブ構造」により、トルク損失率を従来品比で50%以上も低減した画期的な商品である。そして2022年、EV化が急速に進み、高効率な等速ジョイントのニーズがさらに高まっていく中で、ついにCFJの量産が開始されることになった。
一般に、商品の量産化にあたっては、開発時とは異なる課題を乗り越える必要が生じるが、CFJも、その強みを生み出す独特の構造ゆえに、量産化の実現のためには複数の困難を乗り越えなければならなかった。いったいどのような困難があり、どのようにして乗り越えたのか。CFJ量産化を中心で支えた3人の技術者に聞いた。

  • 阿南 翔

    CVJアクスル事業本部
    磐田製作所
    等速ジョイント工場

    阿南 翔

  • 藤原 克弥

    CVJアクスル事業本部
    磐田製作所
    等速ジョイント工場

    藤原 克弥

  • 福田 真昭

    品質統括本部
    磐田品質保証部

    福田 真昭

CFJの仕組みと量産化の背景

省エネ化・EV化が進む中で、高まるCFJのニーズ

自動車のエンジンやモーターの動力を、無駄なくタイヤへ伝えるためには、タイヤの回転速度をディファレンシャルギア(デフ)の回転速度と同じにすることが重要である。そのための機構を「等速ジョイント(CVJ)」と言う。等速ジョイントはほぼすべての自動車の駆動部分に使われるなど、いまや自動車になくてはならない駆動部品である。NTNは、1963年に日本で初めてその量産を開始して以来、長く業界をリードしてきた(現在、国内シェア1位、世界シェア2位)。

近年、CO2排出量の削減や省エネ化が喫緊の課題となる中で、2012年、世界最高水準の伝達効率を持つ高効率固定式等速ジョイント「CFJ」を開発した。これは、NTNが1998年に商品化した世界最小・最軽量の固定式等速ジョイント「EBJ」の基本特性を維持しながら、トルク損失率を50%以上低減した商品である。独自の構造により、取り付け角度(=車体とドライブシャフトがなす角度)が大きい場合にも高効率を維持できるという点を高く評価されてきた。そして昨今、カーボンニュートラルの取り組みが進む中で、CFJの需要はさらに高まり、2022年、ついにCFJの量産が開始されることになったのである。現在、普及が進んでいるEVにおいても構造上、等速ジョイントの取り付け角度が大きくなるため、CFJの上記特性は特に有効となる。

交互に傾斜する溝が、高効率化を実現

CFJの構造や開発過程については、本シリーズ「THE CHALLENGE」でもすでに紹介しているので詳細はそちらを参照していただきたいが*、ここでは簡単にその仕組みや構造を説明する。
*クルマの「走る」と「曲がる」に欠かせない、等速ジョイント世界最高水準の伝達効率を誇る「CFJ」
https://www.ntn.co.jp/japan/the_challenge/detail/index02.html

等速ジョイントは、デフとタイヤをつなぐドライブシャフトの両端にあり、デフ側とタイヤ側の等速ジョイントをそれぞれ「摺動式」と「固定式」と呼ぶ。例えば、自動車は走行時に路面状況により、デフとタイヤの距離や角度が変化し、自動車が曲がる時には、タイヤとドライブシャフトは直進時の状態から大きな角度が生じる(=作動角)。そうした際にもデフとタイヤの回転速度を同等に保ち、動力をできるだけ無駄なくタイヤへ伝えることが等速ジョイントの役割である。

摺動式等速ジョイントは、デフからタイヤまでの距離や角度が変化してもデフからの回転と動力をスムーズにドライブシャフトに伝えられるよう、作動角を取りながら軸方向にスライドできる機構を持つ。一方、固定式等速ジョイントは、タイヤとドライブシャフトに大きな作動角が生じても、ドライブシャフトの回転と動力がスムーズにタイヤに伝わるよう、両者の回転速度を常に同等に保つ機構を持っているのである。

デファレンシャルギアの回転を等速にタイヤに伝える等速ジョイント

今回のCFJは、固定式等速ジョイントである。つまり、自動車が曲がる時に大きな作動角が生じても、ドライブシャフトの回転を、できるだけ損失なくそのままタイヤに伝えるのが役目である。ただ、固定式等速ジョイントは、機構上、作動角が大きくなるほど内部に発生する摩擦力が大きくなりトルク損失が大きくなる。その原因の1つは、従来の等速ジョイントでは、下図のように、内部のボールからケージに伝わる力が一方向に偏っていて、その結果、内部に生じる摩擦が大きくなってしまうことであった。そこでCFJは、内輪と外輪につけられた溝(=転動溝)を交互に傾斜させることによって、ボールがケージを押す力の向きが交互に異なるようにして、力が相殺されるようにした。そうしてトルク損失率を、従来品(EBJ)比で50%以上低減することができたのである。

従来品とCFJの構造比較

交互に傾斜させたこの溝は、「スフェリカル・クロスグルーブ構造」という当社独自開発のものであり、CFJ(Cross groove Fixed Joint)の名称も、この構造に由来する。この構造によって大幅な高効率化が実現し、等速ジョイントの新しい可能性が開かれたが、その一方で、これまでにない構造だけに、量産化を行うにあたってさまざまな難しさに直面することになったのである。今回の量産化において中心的な役割を果たした1人であるCVJアクスル事業本部 磐田製作所 等速ジョイント工場 生産技術課の阿南 翔は言う。

「商品が開発できたとしても、高い精度と品質を維持しながら速く大量に工場で製造するのは簡単なことではありません。特にCFJは、溝の形状がこれまでにないものだったため、開発時とは異なる課題に直面しました。試行錯誤を繰り返しながら、量産化を実現する方法を探っていくことになりました」

速く正確に大量生産するために必要なことは

量産のための生産ラインを作り上げる

CFJの量産化に向けて、阿南に加え、同じ生産技術課の藤原克弥、そして品質統括本部 磐田品質保証部で係長を務める福田真昭が動き出したのは、2021年のことである。先述のように、CFJが従来品と異なるのは、主に内輪と外輪の溝である。それゆえに量産化においては、いかにして溝を高い精度で加工しながら、加工品を高速で大量に生産するためのラインを組み立てるかがカギであり、阿南と藤原はそれぞれ、内輪、外輪の担当としてこの課題に取り組んだ。また、溝の加工精度を確認するためには高精度の測定が不可欠であり、福田が課せられたのはそのための測定器を作ることだった。阿南が言う。

「CFJを作り上げる工程全体をざっくり言うと、まず最初の工程は鍛造で材料をおおまかな目的の形状に加工します。次が旋削で、ここで部品の表面を削り、設計に合わせてさらに形を整えます。そしてその後が熱処理になります。熱処理が終わったあと、より精度が求められるところに限って、焼入鋼切削、つまり、熱処理を経て硬くなった部品よりもさらに硬い刃物によって表面を削り、球面や溝などの仕上げを行います」

この一連の工程の焼入鋼切削工程において、量産化を現場で担当する阿南たちは、高精度、高速かつ低コストで作り続ける生産ラインを実際に作り上げるのが、課せられた業務となるのだ。

高い精度で素早く「搬送」を行うために

内輪を担当した阿南が、苦労した点として第一に挙げたのは、「搬送」の問題である。搬送とは、部品の加工を行う際に、その部品を前工程の場所から移動させ、次の加工を行う機械に取り付けたり、取り外したりすることを指す。内輪の溝の加工を行う際も、やはり搬送が必要となるが、開発時にはそれは手動で行われていた。しかし量産においては、搬送は自動で行われる必要があり、そのためには、新しい搬送装置を開発しなければならなかった。特に溝が、傾斜のある特殊な形状だったこともあり、高い精度で搬送・加工を行うためには、さまざまな工夫が必要になった。

「内輪の外径部分と溝は、それぞれ別の機械で削ります。そのため、加工の際、一度機械から取り外し、別の機械に取り付けることが必要になるのですが、そのつかみ直しの時、中心位置がずれやすい。しかし要求される精度を満たすためには、そのずれを極限まで小さくする必要がありました。そこでかなり苦労することになりました」

しかも、それを高速でできるようにしなければならない。何千、何万という商品を連日作り続けるとすると、加工時間が1つにつきコンマ何秒の違いでも、生産できる数に大きな違いが生じてくる。そのため、「サイクルタイム」と呼ばれる加工時間の要求も厳しく、開発する搬送装置は、瞬時に極めて正確に、内輪を機械に取り付けられなければならないのである。阿南はそのためにさまざまな工夫をし、その他にも、高い精度を維持しながらサイクルタイムを短くするために試行錯誤を重ねたのである。

すべての問題を乗り越えて量産化が実現へ

商品の精度を確かめるための測定器を作る

外輪についても、内輪同様、形状を精度よく仕上げると同時にサイクルタイムの要求を満たすことは簡単ではなかった。外輪を担当した藤原にとって、特に大変だったのは、加工した後、形状が正しくできているかを測定する工程だったという。藤原は言う。

「加工した部品が図面通りにできているか確認するためには正しい測定ができることが非常に重要です。測定方法は、品質保証の福田さんが担当されていましたが、今回のCFJは従来の等速ジョイントと大きく形状が異なるため測定が難しく、私は外輪を担当する1人として連携して、試行錯誤を重ねながら測定方法を詰めていきました。加工だけではなく、加工した製品をどのように測定するのかまで検討したことは、苦労したことの1つです」

測定器の開発を担当した福田はこう話す。

「測定器がないと、例えば先の加工で、要求精度を満足しているか確かめることもできません。そのため、正確で信頼性の高い測定器を、早めに作り上げる必要がありました。与えられた時間は長くなく、その間に、ゼロから測定器を、内輪、外輪それぞれについて作り上げる必要があり、ここは本当に大変でした。測定器は、加工した箇所が要求精度を満たしているか確認するのに使うため、工場の現場作業者が手動で簡単に扱えるものでなければなりません。測定時の力の入れ方によって結果に違いが出ないようにするためなど、さまざまな工夫が必要で、細部の設計に苦労しました」

CFJは、他の商品と比べても精度への要求が厳しいという。それだけに測定器に求められる要求も高かったが、福田は限られた時間の中で、なんとか要求に応える測定器を完成させることができたのだった。

量産を始めたのちに顕在化した問題も1つひとつ解決へ

上記の各点以外にも、乗り越えるべき課題は多くあった。例えば、工具の寿命の問題。工具の寿命が短いと工具費がコストに跳ね返るため、量産においてはここもまた重要な問題となる。藤原が言う。

「溝の形状が従来と異なるため、加工に用いる工具が、早く損耗することがわかりました。工具メーカーと打ち合わせを行い、スペック上の最適な工具を選定していても、実際に加工を行わなければ分からないことは多くあります。工具の形状や材料、加工する条件を変更し、何通りも加工を繰り返すことで、なんとか解決の道筋を見出すことができました」

その他にも、解決しなければならなかった問題は、阿南、藤原、福田それぞれの担当領域で複数あったが、互いに協力し合いながら、1つひとつ解決して、ついに量産を迎えることができた。

工場での生産を支える「生産技術」と「品質保証」

「もう怖いものはない」ほどの貴重な経験

CFJの量産化へ向けて3人が奮闘したのは、まさにコロナ禍真っただ中の時だった。移動や直接の打ち合わせなどは制限され、電子部品が予定通りに届かないことも度々だった。想定外の困難は数多くあったが、CFJの量産化は予定通りに開始され、いまCFJは、多くの自動車に組み込まれ、世界各地で活躍している。

測定器の開発を担当した福田は、こう話す。

「現場の方が手動で簡単に測定できて、かつ何度やっても誰がやっても、同じ測定結果が得られるようになった時は、本当に嬉しかったです。今後、測定器などに関しては、『何かあったら頼られる存在』になれるよう、さらに経験を重ねていきたいと思っています」

また、当時入社して間もなかった藤原は、まだわからないことが多い中で任された業務だった。大変だったが、先輩たちに助けられながら重要なプロジェクトで役割を果たせたことは大きな自信になったという。

「今回のCFJの量産化は、何年かに一度の大きなものだと聞いていました。また、上司からはこれを乗り切れたらあとは怖いものはないとも言われていました。本当に大変でしたが、若いうちにこのような経験をできたのは、自分にとって大きな財産になったと感じています。また、今回のCFJの量産化では分からないことが多く、たくさんの人に助けていただき、協力して業務に当たる大切さを実感しました。今後はもっとコミュニケーション能力を身に付けて、協力して業務ができるよう努めていきたいです」

モノづくりの最前線にいる「生産技術」

そして阿南は、生産の現場に携わる「生産技術」の面白さについてこう話した。
「モノづくりの最前線とも言える製造の現場にいると、正直面白さよりも大変さが勝ります。しかし、現場にいないとわからない空気感があり、そういった感覚は大切にしたいです。うまくできたことも失敗したことも必ず自分の糧となるので、今回の経験もしっかりと自分にものにしたいと思います」

研究者や開発者によって作り出された新しい商品は、生産技術や品質保証の人間によって、正確に大量に生産され、社会の中へと行き渡る。NTNはこれからも、その両者が手を携えて、社会を変え、社会をよくする新商品を、世に送り出し続ける。

※取材内容、および登場する社員の所属はインタビュー当時のものです。