その他

更新日:2025.08.01

高まる社会のニーズに向けて、
荷重に強く長寿命なすべりねじを開発

アルミ複合型樹脂すべりねじ

アルミと樹脂の一体成形によって実現したすべりねじ

すべりねじとは、回転運動を直線運動に変換するためのねじであり、さまざまな機器や装置の中で使われている。NTNは、樹脂製のすべりねじを長年にわたって生産し、幅広い分野の機器に供給し続けてきているが、さらに広いニーズに応えるため、耐荷重性や耐久性のより高い商品を開発すべく研究を重ねてきた。そうした背景のもと、2024年に販売が開始されたのが「アルミ複合型樹脂すべりねじ」である。従来、樹脂単体で作られていたナット部分を、アルミ合金と独自の樹脂材料の一体成形にすることで、耐荷重性と耐久性を大幅に高め、放熱性の向上にも成功した。他社に類似品のないこの商品は、さまざまな産業機械の高性能化を促すものであり、そこには開発者たちの長い歳月と試行錯誤が詰まっている。その開発はどのように行われていったのか。開発に携わった3人の技術者に聞いた。

  • 下田 正人

    複合材料商品事業部
    精密樹脂技術部

    下田 正人

  • 河路 息吹

    複合材料商品事業部
    精密樹脂技術部

    河路 息吹

  • 伊藤 紀男

    複合材料商品事業部
    精密樹脂技術部

    伊藤 紀男

より高性能なすべりねじを求めて

回転運動を直線運動に変換する「すべりねじ」とは

すべりねじとは、回転運動を直線運動に変換するためのねじである。利用例としてイメージしやすいのは、木材を削ったり切ったりする際に加工物を固定する万力(まんりき)だろう。万力は、ハンドルを回転させることによって物を挟む部分が狭まったり広がったりするが、まさにここで、ハンドルの回転を直線の動きへと変換しているのがすべりねじである。大規模な機械から小さな精密機械まで、使用される場面は多く、NTNは樹脂製のすべりねじを長年生産し続けてきた。医療機器や半導体製造装置、食品機械をはじめ、幅広い用途に使われている。

ただ、その耐荷重性や耐久性をさらに向上させてほしい、という声は以前からあった。というのも、すべりねじは「ねじ軸」と「ナット」から成り、すべり性をよくするためにナットが樹脂(摩擦係数が低い)で作られていて、強度に限界があるからだ。その課題を、長年の研究によって克服し、でき上がったのが「アルミ複合型樹脂すべりねじ」なのである。開発を中心的に行った精密樹脂技術部の下田正人は言う。

「これまでの商品は、ナットが樹脂単体で作られていたのですが、その部分を今回、アルミ合金と独自の樹脂材料の一体成形により作ることに成功しました。NTNでは、ここに至るまでにナットの形状や、ナットと樹脂材料の接合方法を変えるなどの試行錯誤を繰り返してきました。その間に開発メンバーも入れ替わったりしてきましたが、私は比較的長くその過程を見てきました」

耐荷重性、耐久性、放熱性が大幅に向上した開発品

アルミ複合型樹脂すべりねじが従来品と異なるのは、ナットの部分だ(図2)。従来品では、ナット全体が樹脂(NTN独自開発のPPS*樹脂複合材料)のみでできていたが、開発品は、ナットの内側部分のみがPPS樹脂複合材料、外側はアルミ合金素材でできている。このように樹脂にアルミ合金を接合させることで、軸と平行方向に作用するアキシアル方向の許容荷重は従来品から80%向上した。また、しゅう動部(軸とナットが接触する部分)の発熱がアルミ合金を通じて放熱されるため、しゅう動部の温度上昇が抑制される(放熱性が40%向上)。その結果、ねじ部分の摩耗量が減って(70%減少)耐久性が高くなるとともに、周辺部品や機械の熱による影響を軽減することが可能になった。
* Poly Phenylene Sulfide(ポリフェニレンサルファイド)の略。射出成形が可能で、連続使用温度230℃の熱可塑性樹脂。耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性に優れる。

図1 アルミ複合型樹脂すべりねじの構造

図2 従来品の樹脂単体型すべりねじ(左)とアルミ複合型樹脂すべりねじ(右)

開発は、下田に加え、彼と同じ精密樹脂技術部の河路息吹、伊藤紀男の3人によって進められた。下田が設計や全体の統括を担い、若手の河路が実験を担当した。そしてNTNで樹脂商品の研究開発を30年以上行ってきた伊藤がアドバイザーとして2人を支えた。いったい開発はどのように進んだのか、以下、経過を詳しく見ていこう。

アルミ複合型樹脂すべりねじ

耐熱性や耐薬品性、電気絶縁性に優れるNTN独自のPPS樹脂複合材料とアルミ合金との一体成形によるナットを使用したアルミ複合型樹脂すべりねじ。ナットに樹脂のみを用いた従来品の静粛性とグリースレスはそのままに、耐荷重性と耐久性、放熱性を向上させている。高速移動用途や高荷重領域に対応する商品として、医療機器や半導体製造装置をはじめとする幅広い用途に向けて提案中。

新たなすべりねじに至るまでの長い道のり

黄銅からアルミへ

すべりねじの耐荷重性や耐久性を高めるための開発は、NTNでは長年にわたって続けられてきた。その間、本開発品に至るまでにどんな段階があったのか。経過を直接見てきた下田が言う。

「樹脂と金属とを接合し一体成形にしたすべりねじを作ろうということになって、まず試した金属は黄銅(真鍮)でした。10年以上前のことになりますが、私はその時期からこの開発に携わってきました。その後、そのすべりねじはでき上がったのですが、黄銅は使っているうちに緑青と呼ばれる緑色の錆が出てしまい、それが機器によっては影響を与えることがあるため、次にアルミを試すことになったのですが、アルミの場合もまた別の問題があって、さまざまな試行錯誤を重ねることになりました」

乗り越えなければならなかった2つの課題

下田が最初に開発に携わったという黄銅と樹脂によるすべりねじは、接合の方法が、今回の開発品とは異なっていた。図3左のように、ねじ山に沿って樹脂と金属とを化学接合させる方法を採っていた。それゆえ、黄銅からアルミに切り替えることになった際も、まずはこの方法で接合を試みることになった。しかしアルミは、黄銅とは違って樹脂と化学接合させることが難しかった。そこで、アルミ側の接合面に無数の微細な穴をあけ、そこに樹脂を流し込んで固めるという特殊な方法を採用することになった。

その結果、図3左のアルミ複合型のすべりねじができあがったが、ここでまた別の問題が浮上した。この接合方法の場合、アルミをねじ山に沿うように一つひとつ削っていく必要があり、加工にとても手間がかかり、さまざまなサイズのものを作るのが困難だったのだ。そこで、加工性の問題も解決すべく次に試すことになったのが、ねじ山のない面で樹脂とアルミを接合させる、今回の開発品の形(図3右)なのである。

図3 従来品(アルミ複合型)と開発品の断面構造

下田たちの試行錯誤をそばで見てきた伊藤が言う。
「最初は、ねじ山がなかったら樹脂と金属を接合できるわけがないと思っていました。微細な穴をあけてそこに樹脂を入れ込むということはするにしても、それだけでは弱くてすぐ剝がれてしまうだろう、と。しかし、表面処理に使う溶液を変えて密着強度を高めるなど、さまざまな工夫をする中で、接合させる方法がわかってきました。そうして今回の開発品を作る道筋が見えてきたという感じでした」

アルミ複合型樹脂すべりねじの完成

耐荷重性と放熱性を高めるために

アルミと樹脂を接合させた新しいすべりねじを作るべく本格的に下田らが動き出したのは2022年の春のことである。開発チームにはこの時期に、試験の担当として河路が加わることになった。河路は言う。

「試験の主要な目的は、大きな荷重をかけても樹脂とアルミとが剝がれないような接合の条件を見つけていくことでした。微細な穴をどのような深さで開けるのがよいか、表面の状態をどのようにするのがよいか。そういったことを下田さんと伊藤さんに相談して、いろいろと条件を変えながら試験をして、接合の強さという点で最適な条件を探っていきました。また、他にもう一つ重要だったのが、十分な放熱性を持たせるためには樹脂の厚みをどのくらいにすればいいかを見出すことでした。まずは流動解析によって最低限必要な樹脂の厚みを計算したのち、少しずつ厚みを増やしては温度上昇を測定しました。すると、樹脂の厚みがある値を超えると温度が一気に上昇することがわかりました」

つまり、樹脂をある値以上の厚さにすると放熱性が一気に低下することがわかったのである。河路は解析を参考に試験を繰り返し、下田と伊藤との相談を重ねた。そうしてついに、最適な樹脂の厚さが決定した。加えて、耐荷重性も高く保つような条件も明らかになり、開発品は完成へと向かっていった。

唯一無二のすべりねじに

本格的な開発が始まってから一年ほどで、「アルミ複合型樹脂すべりねじ」は完成した。その後、医療機器の展示会に出すと、反応はとてもよく、大きな手ごたえを感じたという。下田は言う。

「このように金属と樹脂の一体成形によって高強度を実現したすべりねじは、おそらく他にはありません。そのため多くの方に興味を持っていただくことができました。実際に展示会で見てもらった段階で複数のお客さまから引き合いがあり、早速、お客さまの機械に合うように調整し、いま、試してもらっているところです」

開発品は、これから広く知られるようになっていけば、幅広い業界で求められるようになるだろう。ただ、インタビューが行われたのはまだその前の時期だったこともあり、開発チームは状況を冷静に見つめていた。伊藤は言う。

「いいものができたことは確かですが、まだお客さまに試していただいている段階なので、喜ぶには早いです。開発者としては、量産が決まって実際に売れ始めた時に初めて、本当の達成感や喜びを感じられるものだと思っています。その時が待ち遠しいです」

社会に求められるものを、自らの手で作っていく

高齢化の進行、省人化のニーズの中で

社会全体の高齢化が急速に進む中、医療機器のニーズは今後ますます増えるだろう。一方、省人化のための工夫もいま、あらゆる業界で求められるようになっている。そのような流れの中で、すべりねじが使われる機械はこれまで以上に増加すると考えられ、「アルミ複合型樹脂すべりねじ」は広く求められるようになるはずだ。そうした状況を見据えながら、下田はこれからの展望についてこう話した。

「今後のニーズに応えるために、さらにコストを下げる方法をいま模索しています。より低コストで生産する方法はないか、製造工程をより簡単にできないか、また、市場を世界にも広げられないか。そうした点を、これからさらに追求していきたいと考えています」

開発者それぞれの思い

今回の開発では、世代の違う3人の技術者がそれぞれに持てる力を発揮した。その全体を振り返りつつ、伊藤は、自身の開発者人生と若手への思いを胸にこう語った。

「開発者として、『自分はこれを作ったんだ』と思えるものを1つか2つ持っておくことは大切なことだと思います。それがきっと、その人にとっての達成感ややりがいにつながります。私にもいくつかそういう経験がありますが、河路のような若い世代の開発者がみなそういう経験ができるよう、私はこれからもできる限り、サポートをしていきたいと思っています」

伊藤のその言葉に対して、河路は言った。

「今回自分は、開発の途中から参加したような感じではあったので、そうですね、ぜひ今度、最初から自分で開発した、と思えるものを作り上げてみたいですね」

そして下田は、いままさに各所で開発を率いる立場として、NTNの未来を見据えてこう言った。

「これからもますます、お客さまの困りごとを解決できる商品を、しかも、まだ世の中にないものを、NTNの技術を活かして作り続けていきたいです」

※取材内容、および登場する社員の所属はインタビュー当時のものです。