その他
更新日:2025.02.03
軸受診断用の「ソフトウェア開発」
という未知なる領域に挑む
軸受診断エッジアプリケーション
「Bearing Inspector for Edgecross」
その他
更新日:2025.02.03
軸受診断エッジアプリケーション
「Bearing Inspector for Edgecross」
IoT技術などの発達により現在、生産設備の保全作業は、「状態基準保全」という方法によって行われることが増えている。つまり、センサーなどを設置することで各部位の状態を常時監視し、異常が起きたらすぐに検知するという方法である。そうした保全の方法が軸受に対しても求められるようになる中、NTNは軸受の選定と納入だけではなく、顧客の軸受の取り扱いや運用保守も含めた軸受ライフサイクルマネジメントの強化を進めている。軸受保全の支援に向けて開発したのが、軸受診断エッジアプリケーション「Bearing Inspector for Edgecross」である。
このソフトウェアは、軸受近傍に設置された振動センサーからデータを収集し、簡単かつ迅速に軸受の状態を診断する。データはリアルタイムに収集・分析され、異常があれば直ちに知ることができる。しかも、利用にあたって込み入った設定は不要で、ネットワークへの接続も必要ない。あらゆる現場に対応した使い勝手の良さが売りなのだ。
このような軸受診断ソフトウェアの開発は、軸受単品を開発してきたNTNにとって未知なる領域であったが、NTNが長年にわたって蓄積してきた軸受開発技術があったからこそ可能になった。開発はどのように進み、そして発売から半年ほどが経った今どのような広がりを見せているのか。本ソフトウェアの開発や販売を担当する軸受事業本部の3人に聞いた。

軸受事業本部
センシング技術部
中野 勇大

軸受事業本部
名古屋支社
渡部 真歩

軸受事業本部
センシング技術部
古澤 尚子
生産設備の保全作業は、従来、「時間基準保全」と呼ばれる方法で行われていた。つまり、定期的にメンテナンスをし、その際に異常が見つかれば対応するという方法だ。しかしその方法では、気づかぬうちに部品の損傷や破損が生じ、進行するということが起こりがちだ。そこで現在注目を集めているのが「状態基準保全」である。センサーなどを取り付けることによって設備の状態を常時監視して、問題があったらすぐに対応できるようにするのである。
IoT技術の発達によってこのような保全が可能になり、軸受に対しても同様な保全が求められるようになった。そうした中で、NTNは、軸受診断エッジアプリケーション「Bearing Inspector for Edgecross」(以下、Bearing Inspector)を開発した。軸受の近くに設置された振動センサーからのデータを収集・分析することで、リアルタイムで軸受の状態を診断し、診断結果を「正常」「初期」「注意」「警告」の4つのいずれかで示す。診断結果はシンプルだが、リアルタイムかつ的確に診断を行うことで、早期に異常が検知でき、迅速なメンテナンスへとつなげることが可能になる。本ソフトウェアの開発を牽引した中野勇大(軸受事業本部 センシング技術部)は言う。
「軸受の状態監視には、簡易診断と精密診断があります。前者は、ISOの規格に対して振動値が高かったり低かったりしないかを確かめたり、また、長期的に振動を監視することで、振動値が平時と異なる場合に異常の可能性を検知したりするものです。一方後者は、FFT(高速フーリエ変換)分析*などの手法によって軸受の状態を調べ、異常の有無を検知するような方法です。NTNはこの両方の技術を持っていますが、Bearing Inspectorは、簡易診断に特化したソフトウェアです。業種を問わず誰でも簡単に使えるソフトウェアを作ることを目指しました」
*どのような周波数(=1秒間あたりの振動回数)の振動がどのくらいの頻度で生じているかを、周波数ごとに調べる方法

軸受診断エッジアプリケーション
「Bearing Inspector for Edgecross」
軸受近傍に設置された振動センサーからデータを収集し、簡単かつ迅速に軸受異常を診断できるソフトウェア。軸受情報や設備の運転情報などの詳細な設定は不要で、当社以外の軸受の診断も可能。運転や停止、回転速度など設備の稼働状況を判断しながら、生産現場でデータをリアルタイムに収集・分析することで設備の不具合や故障をいち早く検知し、適切なメンテナンスの実現に貢献する。


「Bearing Inspector for Edgecross」を用いたシステム構成例
NTNがこれまでに開発してきた軸受の状態監視の方法に、例えば、大型の風力発電装置向けの軸受状態監視システム「Wind Doctor」がある。これは、風力発電装置の内部に使われている各軸受の近傍にセンサーを取り付け、データを随時クラウドに送り、異常があれば自動でアラーム通知するとともに、得られた解析結果を日々エンジニアがモニタリングしてユーザーに定期的に報告するというものである。
このようなシステムの開発と運用を通じて得られたノウハウが、Bearing Inspectorに活かされている。Wind Doctorで行う作業をできるだけ自動化し、軸受の状態監視がより安価で簡単に行えるようにソフトウェアの形にしたのが、Bearing Inspectorだと言えよう。
「Wind Doctorによる状態監視だと、例えば、現場で人間が異音を検知できるようになる1ヵ月ぐらい前には異常を検知し、お客さまにレポートを出すことができます。その結果、必要な部品の手配などが早めにでき、修理のための運転停止期間も短縮できます。Bearing Inspectorも同様に、異常を早期に発見し、生産現場をできるだけ止めずに済ますことに貢献するソフトウェアを目指して開発しました」(中野)

Bearing Inspectorには、4つの特長があるという。
1つ目は、名称に”for Edgecross”と入っている通り、このソフトウェアが、産業用IoTプラットフォーム「Edgecross」に対応したものであることだ。生産現場のIoT化においては、取得したさまざまなデータを扱いやすくするために、データを一度「プラットフォーム」に集めて、扱いやすい状態にしてから上位のシステムへと伝達するということが行われる。そのようなプラットフォームの1つで、一般社団法人Edgecrossコンソーシアムが提供しているのがEdgecrossである。Bearing Inspectorは、このプラットフォームに対応するソフトウェアとして作られていることによって、Edgecrossに対応する他の各種アプリケーションと併せて利用することができるなど、使い勝手がよくなっている。
2つ目の特長は、設定の簡単さだ。この点は特に重要な特長であるとして、中野は次のように説明する。
「現在、軸受診断のためのソフトウェアとして市場に出ているものの多くは、精密診断用です。そうしたソフトウェアはいずれも、使用するためにはさまざまな情報の入力が必要で、それが利用のハードルになっています。例えば、軸受の型番を入力しなければならないものの型番がわからない。また、型番が同じでもメーカーが違うと諸元が微妙に違ったりするため、型番がわかってもメーカーがわからないために診断が正しくできない、といった具合です。そのような問題をなくしてほしいという要望が多かったため、Bearing Inspectorは、軸受の情報や設備の運転情報などの込み入った情報を入れずとも診断可能なものにしました。最初に学習モードを設けることで、正常に動いている時の状態をまず覚えさせ、それによって異常が検知できるようになっています」
3つ目は外部接続不要という点だ。インターネットその他のネットワークに一切接続することなく利用できるのだ。
「クラウドサービスなどの利用が一般的になりつつあるものの、どうしても社外にはデータを出したくないというお客さまも少なくありません。その要望に応えて、Bearing Inspectorは、パソコン1台のみで、ネットワークへの接続はなくとも利用できるようなものにしました」
これもまた、他社品には見られない特長であるという。一方、データをクラウドに上げたいのであればもちろん可能だ。
そして最後、4つ目の特長は、リアルタイム診断だ。異常が起きたら最大でも10秒ほどで、そのことがわかるのである。
「Bearing Inspectorは、20~50kHzほどのサンプリングでデータを取っています。つまり1秒に2~5万回ものデータを取ります。扱うデータ量はかなり大きいのですが、それでも1、2秒おきに診断して、3~10秒ごとに診断結果を更新していきます。この点もまた、他のソフトウェアに比べたときの強みです。現場の状態がすぐわかるようにすることを重視して、できるだけ処理が速くなるように工夫した結果です」


最大で16ヵ所の診断結果を簡単かつリアルタイムに確認が可能
上記の各特長によって、Bearing Inspectorは、これまでにないソフトウェアになったと中野は言う。開発の山場となったのはどこかと尋ねると、それは主に、上記4つの特長のうち、学習のメカニズムの構築や、リアルタイム診断を実現するための方法だったという。
「学習の部分では、機械に生じるさまざまな振動から軸受の振動だけを抽出するメカニズムをどう作るか、リアルタイム診断においては、計算をいかに効率化するか、ソフトウェアをどう構成するか、といった点でとても苦労することになりました」
また、無償の体験版を出してみると、さまざまな要望があり、有償版においてそれにどう応えるかという点でもかなり試行錯誤があったという。「このような機能を追加してほしい」という意見があっても、応じすぎると簡便さが失われてしまう。そのためメンバーで議論を重ね、どうしてもあった方がいいと判断した機能だけを入れることにした。たとえば、常時稼働している設備でも、1日の中には、負荷が高い時間帯もあれば、止まっている時間帯もある。そのような運転条件の変化に対しては、最初に設定することで対応できるようにした。
「結果、このソフトウェアには、これまでNTNが培ってきたノウハウが凝縮されることになり、簡単にまねできないものが出来上がったと感じています」

開発が始まったのは2021年で、翌22年には体験版が完成し、無償提供が始まった。そしてユーザーから得た意見や要望を考慮し改修が行われた後、2024年1月に本商品が発売となった。この記事のインタビューの時点で、発売から半年ほどでしかないが、すでに引き合いは多いという。本ソフトウェアの営業を担当する渡部真歩(軸受事業本部 名古屋支社)は言う。
「展示会などを通じて、これまでNTNと取引がなかった新規のお客さまからも、『こんな商品が出てくるのを待っていました』といったお声を多数いただいています。生産現場ではいま、効率化や工数の削減が何よりも求められています。加えて、働く人の不足などで、さまざまな企業において、これまで培われてきた保全の技術やノウハウの継承が困難になっています。そうした中でBearing Inspectorは、本当にニーズが大きい商品だと感じています」

一方、商品が市場に出た現在、その販売と並行して、ユーザーへのサービスを開発していくことも重要になる。その部分を主に担当しているのが古澤尚子(軸受事業本部 センシング技術部)だ。
「簡単診断が特長の商品ですが、お客さまの状況によっては、設定で悩まれるというケースもどうしても出てきます。そういう場合にどんなサポートを提供すればいいのかを検討し、新たなサービスを作ることが現在の私の仕事です」
2024年12月には、新たな支援サービスがスタートした。それは、ユーザーごとの困り事に応じてNTNがトータルにサポートするというサービスだ。例えば、Bearing Inspectorを使うために必要となる、センサーやデータロガーといった機器に不慣れなユーザーもいる。一方、そうした機器はあるものの、調整の仕方や最適な設置場所がわからないという場合もある。前者であれば、機器の選定からサポートし、後者であれば、機器の設定や調整の方法をサポートする。そのようにさまざまなニーズに対処できるサービスを構築したという。
Bearing Inspectorは、NTNが初めて商品として開発したソフトウェアだ。それゆえに、開発や販売の担当者たちには、新たな経験となることが多くあった。中野は言う。
「私はいま、さまざまな業界のお客さまのところにBearing Inspectorについて説明しに行く機会をいただいています。そうした中、『このような使い方はできないか』とご相談いただくことが日々あって、その都度すぐにその場で、『こうすればどうでしょうか』とご提案することが求められているのを感じます。これまでにはなかった経験のため、簡単ではありませんが、いまとても貴重な勉強ができています。その経験も生かしながら、今後さらにこのソフトウェアを改良していくことに加え、別の形の軸受診断の商品を開発していくことも目指したいです」
また古澤は、NTNの将来も見据えてこう言った。
「前例がないものを開発し、売っていく中で、その大変さを実感するとともに、他の部署から支援してもらったり、連携したりということが、これまでにない形でできているように思います。これから当社が、また別のソフトウェアを作っていくとすれば、きっといまの私たちの経験が活かされることになると思います。そういう意味で、いま、やりがいを感じながらサービスづくりに携わっています」
そして渡部は、今回の経験は販売担当者としての新たな視点を獲得する経験になっていると話す。
「今回は、販売担当者として普段携わる範囲を超えたところまで関わらせてもらうことができました。例えばロゴや名称を決める打ち合わせ、そしてデザインレビュー。販売担当者として一番大事なことは、お客さまの視点に立ち、社内に物事を展開し動かしていくことだと思っていますが、今回は、社内の開発側の視点を知る機会になりました。これから私がどのようなお客さまを担当する場合でも、お客さまからお聞きしたニーズをただ社内に丸投げするのではなくて、社内側の目線にも立って物事を考えて、販売担当者として動けるようになるのではないかと、いま感じています。そしてそのように深く関わることができたBearing Inspectorを、今後さらに広く使ってもらえるように、自分にできることをやっていきたいです」


業界を問わず労働人口の減少にともなう業務の省人化や効率化が喫緊の課題となっている現在、軸受をより簡便かつ効率的に保全することはどの生産現場にとっても重要だろう。Bearing Inspectorは、ますます求められる製品となるはずだ。2026年度までに100本の契約を取ることが現在の目標であると言う。
今回の開発によってNTNは、ソフトウェアを作るという新たな道を歩き出した。そのことはきっとこれから、組織にも個人にも大きな力を与えることになるだろう。三人が話す姿が、そんな未来を想像させた。
※取材内容、および登場する社員の所属はインタビュー当時のものです。
※Edgecrossは、一般社団法人Edgecrossコンソーシアムの登録商標です。
※Edgecrossに対応した商品の販売は2025年10月末をもって終了しております。
これに代わり、プラットフォームを限定せず、より幅広いシステム環境下でお使いいただける商品の販売を2025年11月より開始しております。
詳細は こちら