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2010年

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新商品
一人の医師による『脳動脈瘤コイル塞栓術支援装置』を開発
2010年3月30日新商品ニュース

世界初!脳血管カテーテル手術をアシスト

NTN株式会社(以下、NTN)、名古屋工業大学大学院の藤本研究室、名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科の宮地准教授グループによる共同研究チームは、これまで開発した『脳動脈瘤治療用センシングシステム』に加え、一人の医師による脳動脈瘤コイル塞栓術を高度に支援する装置を開発しました(世界初)。

医療現場では、患者の身体的負担の少ないカテーテルを用いた手術が増加しており、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤(血管の一部がこぶ状に膨らんでいる)の破裂を防止する「脳動脈瘤コイル塞栓術※1」もその一つです。本手術では、カテーテルに挿入した極細ワイヤを操作してワイヤ先端のコイルを瘤の中に充填しますが、過度な力で操作すると瘤の破裂や,カテーテル先端が瘤内から逸脱する可能性がありました。医師は、これらのトラブル防止のために適切な力でコイルを挿入する必要があり、熟練が必要でした。

NTNでは、世界で初めて医師が極細ワイヤにかけている指先の微小な力を測定し表示する『脳動脈瘤治療用センシングシステム※2』を2006年に開発しています。これは、NTNの持つ総合的なメカトロニクス技術から誕生しました。その後、名古屋大学医学部とともにその検証を繰り返した結果、当システムの有効性が認められ、開発成果をまとめた論文が、日本脳神経血管内治療学会(JNET)から優秀論文賞の金賞を受賞するなどの成果を挙げています(2009年11月受賞)。

適切な力でコイルを挿入するには、コイルの挿入位置を決めるカテーテル先端の高度な位置決め技術が重要です。一人の医師でカテーテルとワイヤを両手で同時操作するには高度な技術・技能が必要となるため、二人の医師でカテーテルとワイヤを操作することが多いのですが、操作する医師同士の意思疎通が非常に重要となります。また、一人で治療しなければならない状況のときもあります。このような課題の解決が求められています。

開発したアシスト装置は一人での治療を支援するもので、医師はフットスイッチで連動したモータで指先では実現できない送りムラのない一定速でワイヤを送り出しながら、同時に両手操作でカテーテルを位置決めできます。ワイヤの送り出しによって変化するワイヤ挿入力は脳動脈瘤治療用センシングシステムで測定され、従来の視覚表示に加え、音程(聴覚)情報に変換されて医師に伝達されます。この構成により、医師は術中に映しだされるコイルのX線画像を常に監視しながら、コイルとカテーテルを同時に操作できます。また、ワイヤ操作をボタン一つでいつでも従来の手元操作に戻すことができる高い安全性を確保しています。このように、本装置は高度でセンシティブなアシストを実現することで、これまでの医療現場の課題を解決します。さらにワイヤ挿入力の定量化により医師の早期育成にもつながります。今後、臨床応用が広がれば、より安全で確実な脳動脈瘤塞栓術が施行できるようになると期待されます。

※1 「脳動脈瘤コイル塞栓術」
カテーテルと呼ばれるプラスチック製のガイド管を大腿部から頭部の動脈を経由して脳動脈瘤まで挿入した後、カテーテル管中に極細ワイヤを挿入する。極細ワイヤの先端にはコイルと呼ばれる白金製の特殊なワイヤが連結されており、このコイルを脳動脈瘤に詰め込み瘤内部を閉塞させ、瘤の破裂を防止する。

※2 「脳動脈瘤治療用センシングシステム」
医師が極細ワイヤにかけている指先の微小な力を測定し表示する世界初のシステム。極細ワイヤの変位を光学的に検出することで実現し、ワイヤ挿入力の視覚化を行ったもの。

特長

(1) 一人の医師治療を高度にアシスト

二人治療と同じカテーテルの両手操作を実現

(2) 一定速度のワイヤ挿入

フットスイッチ操作に従ったムラのない安定した送り出し

(3) ワイヤ挿入力を音で監視

コイルのX線画像に集中しながら定量的な確認が可能

(4) 高い安全性の確保

ワンタッチでいつでも手動操作に切り替え可能

(5) コンパクト

手術ベッド上で利用可能

お問い合わせ先

商品化・知的財産戦略部

装置写真

装置写真

参考資料

『脳動脈瘤治療用センシングシステム』の開発成果をまとめ、日本脳神経血管内治療学会(JNET)から優秀論文賞の金賞を受賞した論文は、本システムによる正確な測定結果と術中での使い易さなど、評価実験における有効性の検証結果をまとめたものです。また、本システムを使用することにより、これまで不明であった手術時のコイル操作における特徴を明らかにするなど、新たな知見も得られています。

「受賞論文」
著者 松原功明a), 宮地茂a), 大島共貴a), 細島理a), 泉孝嗣a), 靍見有史a),錦古里武志a),吉田純a),永野佳孝b,c),佐野明人b),坂口正道b),藤本英雄b);論文題目「光学的センサーによる脳動脈瘤塞栓用coilの挿入力測定装置の開発」, 脳神経血管内治療, Vol.2, pp.113-118, 2008

a)名古屋大学大学院医学系研究科, b)名古屋工業大学大学院工学研究科, c)NTN株式会社

日本脳神経血管内治療学会(JNET) 優秀論文賞・金賞受賞コメント

優秀JNET論文賞 金賞

  • 名古屋工業大学大学院工学研究科 藤本英雄 教授:
    『最優秀論文受賞は、名古屋工業大学,名古屋大学および、NTN株式会社の産学医工連携により研究開発したシステムが、医療現場で求めているより安全な治療を実現する支援機器として評価された結果と思います。本受賞により、三者の目指す『最高の技で最良の治療を』の実現に一歩近づいたと確信しています。』
  • 名古屋大学大学院医学系研究科 宮地茂 准教授:
    『この研究成果は現在飛躍的に伸びている脳血管内治療を安全確実に行うために大きく貢献するものであり、学会の中でも反響が大きい。その結果として最優秀論文賞を頂けたことは、名古屋工業大学および名古屋大学とNTN株式会社とのコラボレーションによる産学連携の理想的な結実であると思われる。』

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