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マネジメント・コミットメント

取締役 代表執行役 執行役社長 CEO(最高経営責任者) 鵜飼英一
事業構造の変革を進め、
利益を確保できる
企業体質の実現を目指します。
取締役 代表執行役 執行役社長
CEO(最高経営責任者)
鵜飼 英一

当社は、中期経営計画「DRIVE NTN 100」Phase 2を着実に実行していくことで、事業構造の変革を進めるとともに、財務体質の強化、経営環境の変化に対応できる強靭な企業体質の構築に向けて取り組みを加速しています。課題はなお少なくないと認識していますが、アフターマーケットや産業機械事業が拡大基調にあるほか、米州地区と欧州地区が2023年3月期の第4四半期で黒字に転じるなど、明るい兆しも見えています。「DRIVE NTN 100」Phase 2最終年度の今期、中期経営計画の重点課題に対する取り組みにより一層注力することで、利益を確保できる企業体質への変革を実現していきます。つきましては、ステークホルダーの皆さまに当社の現状と展望についてお伝えいたします。

2023年3月期の成果と課題

当社グループの2023年3月期の業績は、売上高7,740億円、営業利益171億円となり、新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けた前期と比較すると増収増益で業績は確実に改善しました。また、アフターマーケット事業および産業機械事業は、過去最高の売上高と営業利益を記録しました。需要回復や為替が追い風となったほか、私が社長に就任する前、両事業を担当した当初から稼ぐ力を重視し、社内で最大限の原価低減活動をした上でお客さまと交渉を重ね、不採算ビジネスの価格改定を進めてきたことが形となりました。
しかしながら、全体の営業利益は公表値260億円に対して大幅な未達に終わる結果となり、投資家の方々をはじめとするステークホルダーの皆さまのご期待に添えなかった事実を真摯に受け止めております。
営業利益が想定を下回った要因は、主に自動車市場向け需要回復の遅れを見越した生産調整や、想定以上のエネルギー価格の上昇、それに伴う各種材料価格の追加的な値上げ、サプライヤーさまからの値上げ要請の受け入れなどによるものです。外部環境の変化も要因ではありますが、課題は4期連続で赤字を計上した、当社グループの売上高の6割以上を占める自動車事業の再生です。自動車事業のうち主力商品であるドライブシャフトとハブベアリングが約8割と業績を大きく左右するにも関わらず、適正な利益を上げられなかったことが大きな反省点であり、コスト競争力の強化と売価への反映の両面からドライブシャフトとハブベアリングの利益確保につなげます。
コスト競争力の強化については、調達改革や生産改革などにより原価低減の弛まぬ努力を継続します。対策のひとつとして、関税の面からコストが有利な部品やコスト競争力がある部品の品質評価を行った上で新たな調達を進めます。今後、お客さまである自動車メーカから工程変更の承認を得た後、コスト競争力のより高い部品を使用することで、比例費の削減を図ります。
売価への反映については、交渉の途上でお客さまから厳しいお言葉もいただきますが、中には「NTNとビジネスを継続したい」「困ったことがあれば言ってほしい」と言ってくださるお客さまもおられ、当社の価値を認めていただいていることを実感しています。今回を契機にさらにお客さまとの信頼関係を築いてまいります。お客さまとの交渉は容易ではないものの、2023年3月期に売価への反映に至らなかった案件も含めて、不退転の覚悟で価格交渉を行っていく考えです。

2024年3月期の見通しと次期中期経営計画に向けて

2024年3月期は、売上高8,100億円、営業利益300億円の見通しを立てました。アフターマーケットおよび産業機械事業は、コスト上昇に対する売価への反映や不採算ビジネスの価格改定を継続することで、過去最高を更新する見込みです。一方、自動車事業は半導体不足の緩和により自動車生産の回復が進むことから、前期比で増収増益を果たすとともに、営業損失からの脱却を目指してまいります。
2024年3月期を最終年度とする中期経営計画の当初目標との比較では、売上高は拡大するものの、営業利益は420億円以上の目標に対して120億円の乖離が生じます。営業利益率についても徐々に上がっているとはいえ、目標の6%以上に対して、2024年3月期は3.7%にとどまる計画です。
中期経営計画の当初目標を達成できない状況ではありますが、2025年3月期からスタートする新たな中期経営計画の早い段階で達成させることが経営者の責務ととらえています。今期にしっかり準備を行った上で、新中期経営計画では、グループを挙げて全力で取り組む所存です。
具体的には、2023年4月に本社の組織体制を改めました。その柱はグループ経営本部とSCM戦略本部の設立です。特にSCM戦略本部については、調達領域から生産、需給統括(生産管理)、物流などサプライチェーンマネジメント全般に関わる業務を一貫して管理する体制としました。機能集約による効率化や全体最適を実現し、グループ運営機能を強化することで、利益向上を目指した事業構造の変革を着実に進めてまいります。

生産改革をはじめ業務全般の改革を推進

生産改革については従来から継続して取り組んできたとはいえ、部分最適にとどまっていたきらいがあります。そのため、ある生産設備の生産性は上がったものの、生産ラインとしてのタクトタイム(製品一個あたりの製造時間)が上がっていないといった課題を抱えていました。これに対して、現在取り組んでいる生産改革は、キャッシュ・フロー経営の観点から仕掛在庫の削減を含めて、全体最適を目指しています。ものづくりの仕組みを変えていくとともに、現場で働く従業員のマインドセット(固定観念、ものの考え方)から変えていくことが狙いです。長年にわたり当社と同様の生産課題に取り組んで成果を上げている企業の助言のもと、抜本的な改革に挑んでいるところです。
また、国内のサプライチェーンに関わる情報を一気通貫で把握するための取り組みとして、基幹システムを刷新しました。これによって、商品の原価と売価、利益をタイムリーに分析できるようになっています。
こうした組織体制の変更や基幹システムの刷新を通じて、今後、事業ポートフォリオの変革を大胆に実行していく考えです。その中身についてはすでに構想が固まっており、正式な機関決定を経た後、皆さまにお伝えいたします。

ブランドバリューの向上で利益率を高めていく

これから先、利益の高いビジネスを追求していく上で重要な課題は、ブランドバリューであると考えます。特にアフターマーケットの分野では、当社が主体となって値決めができる点がビジネスとして魅力があり、その一方で、市場におけるブランド力が価格決定の大きな要因になります。
現に私がシンガポールに駐在していた際、強い印象を抱いたことがあります。ある商品について、当社と競合企業を比較した場合、性能や品質がほぼ同じものでありながら、当社の商品は競合他社より安い市場価格で販売されていました。この価格の違いがブランドバリューにほかなりません。例えば、軸受が故障して今すぐにもほしいというお客さまに対して、スピーディに商品をお届けし、さらには問題の解決に向けてソリューションを提案できれば、高値でも負担するというお客さまが少なからずいらっしゃいます。私が日頃より従業員に「availability(入手可能性、有用性、役に立つこと)」の重要性を強く説くのも、こうした経験や考えに基づいているのです。
当社が目指すべきはアフターマーケット分野におけるプライスリーダーです。こうしたビジネスモデルにおいては、在庫を豊富に揃えることで、お客さまが必要とされるときに一刻も早く届けることが重要です。
それとともに、お客さまのさまざまな課題に迅速に応えるソリューションを提案するには、それを実行できるだけの経験や技能を有する人材、すなわちフィールドエンジニアが必須となります。この部分の強化は一朝一夕で成し遂げることはできないものの、教育研修や実践を通じて実現していかねばならないと考えています。

事業の中長期的な展望

主力の自動車事業では電気自動車(EV)シフトへの対応に注力してまいります。EVシフトの影響で部品点数が減ることに懸念を抱く方も多いですが、当社グループに関してはEVの駆動部に使われるドライブシャフトとハブベアリングを主要商品としていることから、EVシフトはむしろ追い風になるとこれまでもお伝えしている通りです。
既存商品に加えて、EV向け駆動システムの「e-Axle」やハイブリッド車(HEV)用モータやトランスミッションに適した、業界最高の高速回転を達成した高速深溝玉軸受をすでに開発しました。また、EVは加速性が向上するほか、より高い制振性が求められることから、EV特有の挙動に即した電動モジュールなどの開発も進めています。これによって付加価値の高い商品づくりを志向してまいります。
現時点で3年先の量産立ち上げの状況を見ると、ICE向けより付加価値が高いHEVもしくはEV向け商品の比率が上がります。現在さまざまな案件をいただいており、公表が可能になった段階で順次お伝えいたします。
サステナビリティの観点からは、これからの時代において、商品をいかに長い期間にわたって使っていただくかが重要になると考えます。加えて、長寿命とはいえ、そのままではいずれ使い続けるのが難しくなることから、状態をいち早く検知してメンテナンスを行い、さらなる長寿命化を実現することも求められるでしょう。つまり、“maintain(維持)はsustain(持続)に通じる”というのが私の考えです。
従来、当社グループ事業の主眼は、軸受などのハードウェアを製造して販売することにありました。しかし、これからはハードウェアにセンサを取り付けて運転中の周辺データを収集し、ソフトウェアを通じて状態監視のサービスにつなげていくことが新たな収益機会になると考え、取り組みを強化しているところです。
具体的には、風力発電装置の軸受や工作機械のスピンドル(回転軸)の軸受など、さまざまな装置に対応した状態監視システムを用意しているほか、NTNポータブル異常検知装置を使用した軸受の診断レポートビジネスを実用化しています。また、軸受の体積・外観を変えることなく、センサ機能を内蔵した「しゃべる軸受®」も準備しており、そのコンセプトを突き詰めていくことで、当社にしかできない付加価値の高いソリューションになります。
さらに先の展望として考えられるのは、センサを通じて収集した稼働状況に関するビッグデータの活用です。装置が不具合を生じる前に予兆をお知らせすることが可能となり、お客さまが計画的な予防保全につなげることができるサービスを新たな価値として提供してまいります。
また、ビッグデータを活用して、装置の稼働時間などに応じて部品の寿命を的確に予測できれば、どのタイミングでどの軸受がどれだけ必要になるかという、需要予測が可能となります。需要が読めることで在庫量も読めることから、自ずと適切な在庫計画および生産計画、調達計画を立てることができます。つまり、市場から正確な情報を得ることでプル型のマーケティング戦略を展開することができるのです。従来、過去の経験則に基づいて需要を見越して生産計画を立てていたプッシュ型とは真逆のビジネスモデルが成立します。これが、当社グループが目指しているデジタルトランスフォーメーション(DX)を通じた事業構造の変革です。

ESG経営の実践により持続可能性を高める

当社は2015年に「国連グローバル・コンパクト」に署名し、人権、労働、環境、腐敗防止の4分野10原則を普遍的な価値ととらえ、その実現に向けて努力を継続しています。
環境課題への対応については、昨年7月に発足した「カーボンニュートラル推進プロジェクト」を今年4月に「グループ経営本部カーボンニュートラル戦略推進部」とし、より経営に近い組織に再編しました。当社のカーボンニュートラル達成に向けた戦略の立案や推進を、新たな体制で進めてまいります。
昨今、人的資本経営が盛んに取り沙汰されていますが、当社では「企業は人なり」の考えのもと、人材基盤の強化が持続的成長に必須であると認識し、ESG課題のひとつとして「豊かな人づくり」を掲げ、多様な人材の育成に努めています。また、今年から執行役によるタウンホールミーティングを開始しました。私が国内外の従業員と対面してコミュニケーションを重ねてきたことに加えて、各執行役がそれぞれの担当部門を従来以上に積極的に訪ねて現場の声に耳を傾ける活動で、さまざまな階層の従業員の困りごとを聞くことから始めています。会社として何ができるかを明確にし、フィードバックすることでコミュニケーションの深化を図ります。
また、コーポレート・ガバナンスについて、当社は2019年6月に監査役会設置会社から指名委員会等設置会社に移行しており、この体制で中長期にわたる企業価値の向上に努めています。取締役会は議長を女性の社外取締役が務めるほか、指名委員会、報酬委員会、監査委員会いずれも社外取締役が委員長となっています。これによってガバナンスを強化し、企業価値を上げていく体制としています。

取締役 代表執行役 執行役社長 CEO(最高経営責任者) 鵜飼英一

NTNのパーパスと企業価値の向上に向けて

この一年、事業構造の変革に向けてまい進する中、一地球人としてNTNの使命、パーパスについて改めて思いを馳せました。すなわち、摩擦を減らすことでエネルギー消費を極限まで低減させる商品を100年以上にわたって世界に送り出してきたことが、地球環境への貢献につながっているということであり、これが当社グループにおける事業の根幹であるという点です。
これから先の50年、100年に向けて、気候変動をはじめとする地球規模の課題に対する当社の使命は、事業における環境負荷を可能な限り低減させながら、商品やサービスの提供を通じてその解決に貢献することです。こうした活動の蓄積が成果として表れ、当社グループの企業価値向上につながっていくものと確信しています。
最後に、当社はPBRが1倍を切る状況下、改善が必要であることを認識しており、社内で議論を進めております。当社グループは今後も未来に向けて誇りを持って残すことができるものを生み出す企業でありたいと考えます。それによって社会から評価されるとともに、経済価値を高め、投資家や株主をはじめ、お客さまや従業員、取引先さま、社会などステークホルダーの皆さまに利益を適正に還元できる存在となるべく着実に前進してまいります。つきましては、当社に対して変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。