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2021年度のCSR活動をご紹介します。

社外取締役 会談

NTNレポートでは、NTNの経営やサステナビリティの諸課題について、毎年社外取締役の皆さまの議論の場を設け、その内容を「社外取締役 会談」として掲載しています。今年も、津田取締役・小松取締役・西村取締役に、辛口の本音をお話しいただきました。

社外取締役 会談

テーマ1 NTNの現状の課題

2022年3月期の業績は、4年ぶりに最終黒字となりました。まずは業績に対するレビューと、NTNの現状の課題をお聞かせください。

小松:

2022年3月期は、期初に立てた計画を期中に下方修正しましたが、最終的に期初の計画値以上の結果を残すことができました。株価も上昇し、この点についてはマネジメント層と従業員の皆さんの頑張りを高く評価しています。一方で、将来の純利益に関しては、心配な面もあります。本社ビルの売却、持ち合い株の処分などで益出しをしたため、将来業績が悪化したときや不慮のことが起きた際、特別利益を計上して純損失を避けるためのバッファが少ない状況になりました。借り入れも多く、財務体質が強固というわけではないので、危機感を持たなくてはいけません。財務体質および営業キャッシュ・フローの改善を進めるにあたり最大の課題は、棚卸資産(在庫)の多さです。今後金利が上がる可能性を考えたとき、2,000億円を超える棚卸資産を抱えているのは当社の規模からすると多すぎますし、金利負担も増加します。在庫を大幅に減らすことができれば、営業キャッシュ・フローと、資産効率は改善し、将来への投資に回せる資金も確保でき、とても良い会社になると思っています。現時点でももちろん、全社をあげて在庫の圧縮に真剣に取り組んではいますが、たとえ今ある取り引きを失っても在庫を減らすことを選択できるマインドを持って欲しいと思いますし、そういう判断がしやすいように、現場の責任者や管理職の方々に利益や売り上げと同じレベルで営業キャッシュ・フローもKPIとして意識していただくと良いのではと思っています。

津田:

在庫については以前から課題として認識していて、生産改革を進めているところです。昨今の物流の混乱や、上海のロックダウンなど、さまざまな要因があって成果が見えにくいのですが、危機感を持って取り組んでいます。業績については、2023年3月期の営業利益230億円を目標としましたが、鋼材などの原材料価格が急騰している中で、これに見合った価格転嫁ができるかどうかが鍵を握っています。一方で、コストダウンにも一層取り組む必要があります。価格転嫁が見込めずに供給を断った場合、競合がそれを引き受けたとしたら、そもそもコスト競争力がなかったということになります。原価低減にもメスを入れてやらないといけないのです。営業での値上げと、製造での原価低減、両にらみの作戦です。さらに、アメリカと欧州の利益率が良くないのも大きな課題です。アメリカはそもそも赤字体質だったのに加えて、人件費の高騰が大きく響いています。また、欧州は市場が成熟しているため、不採算品目をやめて、合理化を進めないといけません。今、専門チームを編成して抜本的な対策に取り組んでいます。

西村:

お二人のお話を受けて追加でコメントすると、在庫が多すぎるというのが気になります。私は監査委員という立場で生産改革の現場である製作所を見て回っていますが、在庫を減らすということは、完成品が一定数量確保できたら生産を中断することを意味し、現場の人たちはそのことにとても不安を感じるようです。生産を止めれば当然余剰工数が発生します。この余剰工数にどのような場面で活躍してもらうのか。例えば外作工数を内製化に変更するなり、他業務や新規業務で新たな取り組みにチャレンジするなど、原価低減のための工数に充当するのが有効だと思います。従来の生産のやり方を続けていれば現場は楽ですが、作れば売れるという時代はすでに過去のものとなり、適正に生産することが重要になっています。自動車会社もEV化の進展に伴い、主力製品がどんどん変化していく時代に突入しており、適正に作ることが求められています。それこそ余剰在庫を抱え過ぎて不良在庫となった場合には最悪な事態です。今こそ経営と現場が一体となり、適正在庫を持つような改革が必須だと思います。また津田取締役がおっしゃったように、お客さまへの価格転嫁はあくまでも原材料の高騰を転嫁するものであって、それ以上の利益を確保するには原価低減活動は必須です。さらには今期営業利益230億円達成については、自動車市場、アフターマーケット市場、産業機械市場でのポートフォリオの抜本的見直しを含めて、リソースの配分を見直すことが必要に感じます。

小松:

こういった経営課題は、もちろん経営も執行も認識していて、実行しようというやる気もあります。方向性も間違っていません。唯一心配な点はスピードです。財務的な体力が落ちている中、インフレーションの進行で金利上昇リスクが高まっており、在庫を適正水準まで減らす全社の改革のスピードを加速する必要があると思っています。社内の皆さんは十分危機感をもっていらっしゃると思いますが、正しい施策を着実に実行していても、環境変化に間に合わなければ、厳しい対応を迫られる事態になってしまいますので、改革の内容に加え「スピード」も重視していただきたいと思っています。

テーマ2 「なめらかな社会」の実現に向けたESG課題について

「なめらかな社会」の実現に向けたロードマップを策定されました。今後のサステナビリティ活動について、展望や課題をお聞かせください。

西村:

2035年度のカーボンニュートラル達成を標榜しているので、これについてどのような施策を打つのかに注目しています。消費電力を抑えたり、再生可能エネルギーを使用したりということはもちろんですが、私は、地球環境に配慮した脱炭素の素材の開発という点で、当社の活躍の場があるのではないかと考えています。例えば、植物由来のバイオ素材を作って新しいベアリングに活用する、あるいは、グラフェンなど、軽くて硬くて丈夫な素材の開発に取り組むといったことは、対外的なメッセージにもなりますし、ほかの産業にも活用できれば、当社の社会的貢献度合いが高くなります。当社にはそのような研究の下地や人材が存在すると感じています。是非このような新規開発事業を政府機関と連携するなどして立ち上げ、2035年度カーボンニュートラル達成に貢献してもらいたいと思っています。

津田:

私は大型の風力発電がどうなるかということにも注目しています。当社は大形軸受を作って、海外メーカに納めていますが、この分野はヨーロッパや中国が進んでいて日本は出遅れています。カーボンニュートラルの達成には、日本のエネルギー政策も大きく関わるので、国の政策を見ながら、当社としての解を見つけていかなくてはいけない。なかなか難しい挑戦です。
また、最近は人権も大きな問題となっています。日本企業はどこもそうだろうと思いますが、単一民族のため、人権についての意識が昔から高くないように思います。最近グローバルで人権の課題がクローズアップされ、ようやく日本企業でも意識が高まり始めたというのが実際のところではないでしょうか。サプライヤーの方も、どこまで意識して取り組めているのか、なかなか分かりにくいところもあります。海外事業所の方が進んでいるという面もあるので、グローバルの情報をしっかり捕捉しながら、全体として人権に配慮した事業活動を行えるようにすることが重要でしょう。

小松:

カーボンニュートラルや人権の問題はお二人がおっしゃる通りです。加えて、私はダイバーシティがあまり進んでいない点も気になっています。コロナのためにあまり対面で話す機会を持てなかったのですが、これからは女性従業員の話を積極的に聞いていきたいと思っています。働く女性に対して男性管理職が配慮しているつもりが、気づかないうちに評価の際にバイアスがかかってしまい、女性のプロモーションが難しい状況になっているということが、歴史のある日本の会社ではよくあります。私は管理職や管理職予備軍にもっと女性がいた方が良いですし、最終的には内部から女性の取締役が出るのがベストだと思っていて、そこに向けて取り組みを始めていきたいと思います。また、現在、人事制度の見直しが進んでいますが、年功序列で階層が上がる現行制度だと、どうしても女性が出遅れてしまいます。年齢や性別、働き方に関わらず昇格できる制度になれば、ダイバーシティ改革が進むと思います。

津田:

小松さんは、取締役会の議長になります。取締役会の議長が外部の役員で、さらに女性であるというのは日本企業では例が少ないと思いますが、当社のダイバーシティの推進に貢献されると期待しています。

テーマ3 不安定な世界情勢や為替の影響に対するNTNの取り組みについて

ロシアによるウクライナ侵攻でバリューチェーンは混乱し、さらにエネルギー価格の高騰など企業は危機に直面しています。また、各国の金融政策により、急速に円安が進んでいます。こういった不安定な情勢や為替の状況に対してのNTNの向き合い方についてご意見をお聞かせください。

小松:

エネルギー価格の高騰については、確かに厳しい状況ではありますが、逆に日本に長年沁みついた「安売り」という商慣習を打破するチャンスではないかと考えます。仕入れコストの上昇による価格転嫁は、日本以外の国では当たり前に行われていることです。それが当然なのだとマインドセットを変えて、交渉を続けてもらいたいと思います。価格転嫁ができる体制になれば、需給のバランスを見て自社の供給を統制し、自社が優位な状況でバリューチェーンを構築するといった機動的な経営ができます。ピンチをチャンスに変えて取り組んでいって欲しいと思います。
バリューチェーンの混乱もまた、チャンスと捉えることができます。特定の地域への調達の依存を回避するため、日本からも調達する動きになるかもしれません。それに応えることができる財務的な体力と余力を持っておくことが重要です。そのためには、ビジネスを失ってでも価格転嫁するという経営判断ができるかどうかです。また、失ったビジネスに張り付いていた製造や営業の人員をどのように活用するのか、危機的な状況においては、走りながら考えるスピード感が大切になるでしょう。

西村:

小松さんのおっしゃるように、今やるべきことは体力をどう持たせるかです。鵜飼社長も、財務体質の改善を中期経営計画の重要施策のひとつに掲げ、危機感をもって取り組んでいます。営業利益率を高めるための努力、商品ポートフォリオの転換、固定費・比例費の低減などやることは山のようにあります。本当の実力をつけて、余裕をもって経営をしないと、なかなか次の一手を打つことができません。これからも外部環境がどんどん変化する中で、対応力をどうつけるか、そのためには体質改善が大きなポイントになると考えます。固定費の低減と申し上げましたが、先ほども話したように人の問題は避けては通れないでしょう。余剰工数がないか、あるならDXや新規事業へ振り向けられないか、そのためには人的資本への投資が必要ではないか、そういったことを取締役会でもっと議論すべきではないでしょうか。

津田:

円安については、短期的に見れば業績にはプラスですが、この先どう振れていくかは分かりません。これだけ不確実な状況の中では、それぞれの国でそれぞれのモノを作っていくブロック化が進むかもしれません。それぞれの国・地域のマーケットでしっかり戦っていけるのか、コスト競争力はどうか、じっくり見ていく必要があります。何でも海外の安い地域で作ればいいという時代ではありません。日本の状況を見直す良いチャンスだと私は考えています。

テーマ4 NTNへの貢献について

最後に、社外取締役としてNTNにどう貢献していくのか、お考えをお聞かせください。

西村:

取締役に就任して2期目が終わりました。社長の交代もありましたので、この1年の変化についてお話をしたいと思います。まず良かった点ですが、鵜飼社長の強力なリーダーシップのもと、会議の結論が明確になりました。そのため、取るべきアクションが分かりやすく周知徹底されて、行動が早くなったと感じます。また中期経営計画の達成に向けて、各執行役が連携して取り組むようになり、チーム経営が動き始めてきたのではないでしょうか。
一方で、残念な点が2つあります。ひとつは、トップダウンは徹底されている一方で、ボトムアップが不十分という点です。生産改革現場で感じることは、今ひとつ改革の成果に対して執念が足りないこと。何が何でも在庫を半減する、原価を半分にするという目標があって、それに向かってみんながベクトルを合わせるという姿勢が見えづらく、しかも活動が一部の人に偏っているように感じます。
現場が自ら考え、工夫をして在庫削減、原価低減、資産の有効活用など、改革を進めて自信を持ち、さらなる業務改革を日々推進する文化が定着すると強い会社になります。そのためには現場のリーダーたちの役割が極めて重要です。失敗を恐れず自信を持って前進すること、そして、部下を信じてあげること。その上で経営と生産現場、営業現場が一体感を持つことができれば、改革はさらに進むでしょう。
2つ目は、部門間の業務の「のりしろ」が少ないことです。これによって時々業務間の引き継ぎにおいて空白が生まれます。責任の所在が不明確な事態が発生します。このことは自分たちの業務の価値を十分理解できていないことに原因があります。どの業務もそうですが、自分たちの業務に誇りを持ち、その価値を高めていく意識があれば空白は減少すると思います。
私は監査委員という立場で現場を回っています。生産改革活動では成功事例もあり、上伊那製作所では在庫を半減し、黒字化しました。これを水平転換すれば、もっと士気は高まるはずです。社外取締役としての私の役割は、執行役をサポートしながら、このような成功事例をみなさんに共有できる環境づくりをすることだと思っています。

小松:

良い変化については、私も西村さんと同じ意見です。NTNのマネジメントの変化と、鵜飼社長のリーダーシップの強さが認識された1年であったと思います。NTNへの貢献という点については、ダイバーシティの推進に加え、いろいろな局面でモニタリングを徹底していきたいと思っています。先ほど述べた通り、当社がやろうと思っていることや方向性は正しいと思っています。このまま進めていけば問題ないでしょう。心配なのは実行力と繰り返しになりますがスピードです。実行力については、取締役会などの場で、ロードマップの進捗をモニタリングして、できていないところや遅れているところについて理由と対応策と期限を明確にしていくことが私の役割だと認識しています。スピードについては、「このスピードで大丈夫ですか」と常に問い続けます。また、適時・適切に全社規模でモニタリングする仕組みの構築についてもお手伝いできればと思います。

津田:

取締役に就任して6年が経過しました。この間、ガバナンスにおいては、指名委員会等設置会社に移行し、社長も交代しました。今年から取締役会議長は社外取締役にということになりました。社外取締役として指名委員会委員長として貢献できたのではと思います。
さらに、会社が変化したと実感するのは、あらゆる組織が必要とされる「説明責任」と「透明性」の向上です。私たち社外取締役に説明し理解が得られなければ経営はできません。そのことが社会への情報提供の充実や従業員への十分な説明につながっていっているのではと思います。執行役の制度も、以前は「専務」「常務」など、どうしてそうなるのか分かりにくい役職があったのですが、社長以外はすべて執行役に一本化しました。これに合わせ、執行役の基本報酬についても、所管内容に応じて計算すれば分かるように透明化が進みました。「なぜなのか」「よく分からない」という状況は、従業員の不満にもつながります。説明責任を果たし、透明性を高めること、そのことを意識しながら務めた6年でしたが、その点では、当社は進化してきていると感じています。あとは、業績が伴えば言うことありません。引き続き社外取締役として、NTNに期待を込めながら、厳しく経営を見ていくつもりです。