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2020年度のCSR活動をご紹介します。

社外取締役 会談

NTNレポートでは、NTNの経営やガバナンスの課題について、毎年社外取締役の皆さまの議論の場を設け、その内容を「社外取締役対談」として掲載しています。今年も、津田取締役、昨年社外取締役に就任した西村取締役・小松取締役に、NTNのガバナンスやESGを含めた経営の課題について辛口の本音をお話しいただきました。

社外取締役 会談

テーマ1 NTNの現状の課題

この数年で社内の統合思考は高まった一方、業績が追いついてこない点について、課題をお聞かせください。

津田:

2021年3月期は、コロナ禍で当社主力の自動車メーカが大きく減産したことが減益の主要因ですが、基幹システムの入れ替えの投資が当初の想定より膨らんだこと、利益率が高い補修事業や産業機械事業へのシフトがまだまだなこと、また過去の設備投資からのリターンが当初の想定に達せずに減損損失を発生させたことなども相まって、数字的にはなかなか表に出てこないのが現状です。残念ながらこれまでの設備投資の管理については不十分であったと言わざるをえません。そうはいっても、この1年間を振り返ってみると、キャッシュ・フローがプラスに転じました。また、在庫も固定費も大きく減らしました。損益分岐点も下がってきています。計画したことについて、結果を出している点は評価できるのではないでしょうか。まだ国内拠点の再編を含めてやるべき構造改革は終わってはいませんが、半導体不足の影響はあるものの、足元では自動車事業は復調してきているので、体力を回復させながら課題を解決していくことになります。経営の腕の見せ所と感じています。

西村:

この1年間、損益分岐点を下げるために固定費削減を実行したことは私も評価しており、経営的には好転していると感じています。一方で、この1年足らずの私の経験で本質的な課題と感じたことが2つあります。
ひとつは、意思決定のプロセスについてです。重要会議で意思決定はするものの、経営陣の合意形成や腹落ちが不十分と感じます。全社としての意思決定であるにもかかわらず、一部の部門にアクションが集中し、全社的なアクションになっていません。従って特定部門の努力で改善できることは進んでも、全社的な効果をまだまだ生み出していません。今後の経営の在り方を「チーム経営」に大きく舵を切る必要性を感じます。そのためにも組織はできるだけフラット化し、意思決定と合意形成を迅速に組織全体で共有できるように変えていくことが必要だと思います。
もうひとつは、投資についてです。現状、社内で議論されている投資案件のほとんどが、設備投資に集中しています。当社はこれまでベアリングやその応用商品を作っていれば商売ができていました。そのため、商品のさらなる付加価値向上を行うことに十分な投資が行われてきませんでした。技術研究開発は行われてきましたが、新商品の価値がどれほどのものなのか十分な市場調査はなされていませんでした。このことは、現状の自分たちの価値提供の立ち位置がどこにあるのか十分把握できていないことを意味します。お客さまの立ち位置に立って、当社がどう見えるかを俯瞰することが必要かもしれません。そういった意味で、マーケティングに対する投資やさらなる付加価値向上に向けた技術開発、商品開発にもう少し投資をするべきです。外部専門会社とのアライアンスや異業種企業との技術協力、提携など色々な選択肢があります。そのためにはさらなる利益率の向上を行い、予算上明確に投資項目に組み込むことと、推進する責任者を選出することが必要です。

小松:

投資家からは、ビジネスポートフォリオに課題があると見られているのではないでしょうか。自動車OEMという将来の成長が見えづらい事業に投資が偏り、それがポートフォリオの大部分を占めています。本来であれば補修事業や粗利が高いほかの事業に注力したくても、自動車OEMに人や投資などのリソースを割かざるを得ず、なかなか機動的にできません。また、内部留保が厚ければ、事業ポートフォリオの転換に危機感をもって素早く行動できるのかもしれませんが、現状は内部留保が少ないのでゆっくりとしか進めません。この点は理解できるものの、せめて方向性を決めて、それを従業員全員と共有することが変革のためには必要です。投資家が求めるスピード感ではないかもしれませんが、会社が持続的に発展していくために十分なスピードで変革できれば、利益率の高い会社になるのではないでしょうか。

津田:

変革という点でいうと、今年就任した鵜飼社長は、産業機械事業と補修事業に長年携わってきて、東南アジアでの経験も豊富です。利益率の高い補修事業を強化するためには、自動車のOEMなどが増えても利益が取れないのであればやめて補修に回すという、明確なポリシーがあります。もちろん今までもその議論はありましたが、現実には思うようにいきませんでした。在庫についても、一律に減らすのではなく、補修で必要な品番は一定数を持っておき、即納できる体制は整えておかないといけない。そういうことに取り組んできた方です。当社が抱える課題に大胆に挑んでいくことを鵜飼社長には期待しています。

小松:

そうですね。それからもうひとつ、社外取締役に就任して気になることがあります。それは現状に即した管理会計のアップデートが遅れていることです。現在も管理会計は機能していますが、全役職員が同じ数字を共有し、スピーディーに正しく事業判断ができ、財務会計の営業利益が自動的に増加する状態ではないと思います。あらゆる費用を従業員の皆さんが納得する基準で配賦し、正しくコストを把握し、儲かっているのか儲かっていないのか瞬時に認識した上で、業務を進めたいと皆さん思っていらっしゃいます。評価対象のKPIの設定も気を配る方が良いと思います。当社に限らず、本部費用配賦前利益をKPIに設定する日本企業は多くあります。ただ、財務会計上の営業利益もKPIとして従業員と共有しないと、自部門は目標達成しているのに、全社利益が厳しく報酬が減る場合、従業員の不満が大きくなりモチベーションも下がります。あらゆる費用をできるだけフェアに配賦した上で、全員がそれをKPIとして共有する、さらにそのKPIを評価に反映するといった一連の流れを早期に確立できればタイムリーにコストを理解して、受注すべきかを早く判断できるようになり、従業員のマインドセットも変わって、利益回復が加速するのではないかと思っています。経理部門は管理会計の課題が分かっています。ただ、現状は基幹システムの稼働が全社的に遅れているので、目立った進捗は見えません。取締役会でもこれらの課題は共有されているので、これから進展すると考えています。
人事制度についても、役員の評価制度を変更する計画が進んでいます。2022年3月期中に実施できるかは分かりませんが、議論は進んでいます。

テーマ2 指名委員会の役割

指名委員会等設置会社に移行して初めての社長交代でした。今回のプロセスをお聞かせください。

津田:

指名委員会の構成は、委員会の長である私を含めて社外が3名、社内が2名となっています。社内の2名のうちのひとりは社長、もうひとりは人事担当役員という構成でした。社長の退任や後継者については、いきなり全員での会議というのは難しく、社外取締役の3名の間で議論し、また大久保前社長とは対話をしながら、さらにはほかの社外取締役とも意見交換を行った上で指名委員会を開催しました。当社のこの厳しい時期を突破できる実行力、企画力、過去の経験などを評価して、鵜飼社長が適任であると全会一致で決め、取締役会に推薦するというプロセスを経ました。

西村:

私も、後継者について、大久保前社長と意見交換をしました。前述の通り、当社には「チーム経営」への転換が大きな課題と認識しており、熱意をもってその変革を導ける人物として鵜飼社長が適任ではないかと推薦しました。その経営手腕には大きな期待をしています。社長ばかりでなく、いずれの役員も不得手の領域があります。それを互いに補い合って、経営陣が「チーム」として機能することで、全社俯瞰的で長期の変革を実現する、確固たる経営判断ができるのです。彼がそれをどのように経営の意思決定プロセスとして位置づけ、役員ばかりでなく、有能な人材をチームとして機能させていくのかが今後重要と思います。

テーマ3 NTNのサステナビリティ

今年、マテリアリティを特定し、本格的にサステナビリティ経営を推進していこうとしていますが、このような動きをどう見ていらっしゃるでしょうか。

小松:

サステナビリティ経営に真剣に取り組んでいるのは確かです。特に鵜飼社長になってから、世界の脱炭素の課題について強い危機感を持って取り組もうとしています。排出量削減だけでなく、当社の商品がいかに環境に資するかということについても、全社一丸となって真剣に取り組んでいるのではないでしょうか。一方で、ダイバーシティなどに関しては、あまりにも環境の課題が大きい分、後手になっているのではないかという印象があります。ESG課題の全てをカバーすることは難しく、かつ、環境が喫緊の課題であることを考えると、環境に重きを置く判断は間違いではないと思います。ただ、私が驚いたのは、女性の役職者が少ないことです。当社の男性役員が女性に対して偏見をもっているということは全くないのですが、評価をする際、選ぶ基準が知らず知らずのうちに男性主体になっている可能性があるのではないでしょうか。また、こんな仕事を女性にさせたらかわいそう、家庭もあるから大変じゃないかという考えもあるのかもしれません。そういった判断が嬉しい女性もいればそうでない女性もいます。働き方が変わるのであれば、管理職になりたいと思う女性が増える事例もあります。こういうことについて女性社員や役職者と話をする必要があると感じます。
また、女性だけでなく日本人以外の活躍も重要です。女性と同じで、外国人を排除しようとする気持ちは全くありません。今後は変わらざるを得なくなるでしょう。どのようなビジネスモデルになったとしても、さまざまな国の人材や女性が入ってくることで変革は進むと思っています。

西村:

今回、当社がサステナビリティ経営の一環としてTCFDの提言に賛同表明したことは、大きなビジネスチャンスです。当社は海外売上が約70%を有するグローバル企業で、アジア、ヨーロッパ、米州地区とグローバルに多くの生産、販売、研究拠点を持ち、各拠点が連携すれば24時間止まることなく継続的にサービス提供ができます。すなわち、今回の賛同表明は、気候変動によるリスクがあっても各拠点間の補完連携でお客さまに継続的にサービス提供するという「グローバル標準」を当社が手掛けるという宣言なのです。そのためにも当社は、グローバルに調達・製造・販売・物流の標準化や情報共有、ガバナンスの強化を推進し、“One NTN”としてまとまらなければなりません。少なくともこれから目指す新商品、サービス事業については、初期段階から全社視点で「グローバル標準」を意識すべきです。
また今後多くの国や企業が脱炭素社会の実現に向けて大きく舵を切ることが予想されます。当社はなめらかな社会の実現を創業以来継続してきました。この強みを活かし、再生エネルギーや新エネルギー、新素材の開発などで、さらに社会を一歩リードしていく必要があります。この機会に、もう少し顧客層に近く、付加価値の高いステージを目指すべきです。カーボンニュートラル達成は、どの国、企業も今後大変苦労するでしょうし、新エネルギー需要に対して供給が追いつかない事態が迫っています。思い切ったアライアンスを進めるチャンスかもしれません。風力発電のキーを担う当社としてはグローバルに風通しの良い会社を目指していくことが大事なことと思います。

津田:

今後、サステナビリティ委員会から提案が上がってきますが、問題は「いつまでにどうするのか」という議論をすることです。目標を作って、どのように取り組み、どう評価につなげていくのか。この点について話をしていくのが取締役会の役目になります。さらに、今は気候変動に焦点が当たっていますが、従業員の働き甲斐などにも目を向けて「見える化」していくことが必要だと思っています。

小松:

マテリアリティは環境以外のS(社会)やG(ガバナンス)についての項目も特定されています。こうしたバランスのとれたマテリアリティについて、取締役が腹落ちして、さらに組織の最前線まで浸透させていくことが重要ですね。実行されないのはもったいないと思います。

テーマ4 サステナビリティと役員報酬

こういったサステナビリティ経営の成果を報酬に連動させようという動きについてはいかがでしょうか。

小松:

ESGに関するKPIについて、現在議論が進んでいます。報酬委員会では、設定したKPIについては、少なくとも役職者の評価に連動させようという議論をしています。

津田:

現在、役員の中長期のインセンティブについて、株式連動報酬を取り入れていますが、使用している指標は中期経営計画期間中の連結営業利益率や総資産回転率など、経済的指標だけでした。そこに社会的指標をどのように入れ込むのか、その方向性を議論しています。さらに、役員だけでなく、たとえば事業所でも社会性指標の目標設定があって、達成したら賞与が上がるなどの仕組みが必要だという話もでてきました。今はNTNの再生をはかることを優先的に取り組んでいるので、社会性指標の目標の公表までなかなか手が回らないのが実情ですが、計画値と実績値を出すことが必要だということは認識しています。

テーマ5 グローバル化、内外一体化

以前から課題として上がっていたグローバル化や内外一体化の進捗はいかがでしょうか。

津田:

私は、過去の対談でも当社のグローバル化や内外一体化の課題をお話してきました。CSR活動などはグローバルな取り組みになってきており、製造や品質も現場では海外との意見交換や技術交流はありますが、本社の各部署が「グローバル本社」としての認識があるのかどうか、やはりそのあたりがまだ満足でないと感じます。たとえば委員会や取締役会などでも、本来は海外を含めた報告があってしかるべきなのですが、国内の話がメインになっていることがまだあります。もう少し言い続けていかないといけないところでしょうね。

テーマ6 NTNへの貢献

最後に、社外取締役としてNTNにどのように貢献していくか、お聞かせください。

西村:

この1年間私は監査委員として、本社業務部門や可能な限り全国の製作所、関係会社を訪問し業務監査を行ってきました。現場の課題のみならず、魅力溢れる人材や今後大いに期待できる生産改革の進捗などを数多く見てきました。しかしながら全体として、本社と製作所間、また製作所間同士の意思疎通や情報の共有が不十分もしくは希薄であるという印象があります。個別最適ではなく、全体最適を目指す「チーム経営」は待ったなしです。私は前職において、「カリスマ経営」から「チーム経営」へ転換する企業の経営陣のひとりとして、多くのことを学びました。この経験は当社の変革にも大いに役立つものと考えています。当社にふさわしい「チーム経営」のあるべき姿を提言するとともに、従業員とともに追求していきたいと思っています。
もうひとつは異業種企業とのコラボレーション推進です。前職では官公庁、金融、医療、放送などのお客さまに対し、社会インフラ構築に向けて政府、自治体、関連団体、企業との連携を盛んに行ってきました。当社がいきなり社会インフラ事業に食い込むには未だ大きなハードルがありますが、今後期待できる新規事業分野の中から異業種企業とのコラボレーションを進め、社会に対するさらなる価値を拡大し、次代の「グローバル標準」をリードする企業となるべく、そのパイプ役を担いたいと思っています。

小松:

私は、グローバルキャピタリズムの機関投資家と、ドメスティックなエンターテイメントパブリッシング業界を経験しているので、ガバナンスについてバランスの取れた提案ができるのではないかと思っています。ダイバーシティを含めたESGや管理会計も、出しゃばりと思われても、こちらからヒアリングしたり提案したりして、1日でも早く実践できるようにお手伝いし、企業価値向上に貢献したいと思います。また、過去の経験から、モニタリングの重要性を嫌というほど学びました。モニタリングがしっかりしていれば、軌道修正や対応もタイムリーに実施できますし、投資成果の検証は将来の投資成功確率を上げるだけでなく、チャレンジをしやすくなります。投資しっぱなし、宣言しっぱなしにならないように、「どうなったか」ということを常に問いかけていきたいと思っています。

津田:

自動車や産業機械以外の分野でのマーケティングや、異業種との共同開発などのコラボレーションはなかなか進んでいません。新規事業に出ていこうとしても自社だけではできないことが多いのですから、もう少し積極策を講じる必要があります。これまで特定の顧客を相手にしてきたから、つながりが作りにくいのではないかと思いますし、「言うは易し行うは難し」ですが、やはり私としては言い続けていかないといけません。社外取締役を5年やって何ができたかというと内心忸怩たる思いですが、計画して実行したことに対して、評価と分析が十分にできていないというのはずっと感じてきました。結果はどうなのか、できなかったら何が悪いのか、その分析が重要です。小松さんもおっしゃいましたが、追及していきたいと思っています。取締役会の報告事項についても、もう少し取締役が求めている報告事項を整理して、充実した報告事項が上がるようにしていく必要があります。まだ改善するところはたくさんあり、今回も辛口になってしまいましたが、NTNが再生を果たし、企業価値を向上させることを目指して、引き続き取り組んでいきたいと思っています。