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2019年度のCSR活動をご紹介します。

社外取締役対談

改革の着実な推進によって企業価値を高めていきます。

津田 登

2005年6月  三菱化成工業株式会社(現 三菱ケミカル株式会社) 執行役員
2014年4月  株式会社三菱ケミカルホールディングス 代表取締役副社長執行役員
2016年6月  当社 社外取締役(現任)

川原 廣治

2010年6月  株式会社三菱東京UFJ銀行(現 株式会社三菱UFJ銀行) 執行役員
2015年6月  当社 常勤監査役
2019年6月  当社 社外取締役(現任)

テーマ1 ガバナンス改革の成果

2019年6月、NTNは定時株主総会での承認を経て、監査役会設置会社から指名委員会等設置会社に移行したが、移行により何が変わったのか。

津田:

従来型の日本企業は、執行と監督の分離がはっきりしておらず、執行の監督機能、いわゆるガバナンスが不十分でした。NTNも同様で、社外取締役を折角導入したものの、従前通りに細かいことまで取締役会で決める一方、報告内容が社外者にとっては不十分で、肝心の取締役の監督機能が弱いままでした。従来型の企業体質から脱するために、ガバナンス面で思い切って機構自体を変えたほうが良いと考え、指名委員会等設置会社へ体制を変更しました。執行役を兼ねていない取締役が取締役会の過半数を占める6名になったことも含めて、良い方向に進んでいるのではないでしょうか。

川原:

そうですね。経営のスピード化を図るためにも、執行役は業務の「執行」に集中し、取締役は「監督」を行う体制への移行は適切だったと思います。執行は、社長以下の執行役が迅速に実行し、取締役は「会社の大きな方針と執行の状況を受けて、人事・報酬などの評価を行う」という本来の役割に徹することができるようになりました。私はそれまで4年間社外監査役を務めていましたが、就任後に、先輩監査役の奨めで、監査役会に毎回社外取締役がオブザーバーとして参加し、社外役員間の情報共有や意見交換の場としたことで大変有用な機会となりました。一方で、「前例踏襲が多い」とも感じていました。監査の際のインタビューで、「何故こうなんですか」と質問すると、「前からこうなんです」と答えが返ってくることが多かったからです。そういったところを変えなくてはと思っていても、なかなか変えられないという実態があったのではないでしょうか。

津田:

指名委員会等設置会社への移行が、そのような風土を変える良いきっかけになりましたね。

川原:

その通りです。ただ、この移行は時間をかけて話し合っても、議論がずっと平行線をたどって、なかなか前に進みませんでした。私は取締役会が開かれるまでに開催される経営会議などにも参加していますが、以前は同じテーマの会議を何度も経て、やっと取締役会にかけられる例もありました。体制変更後は、執行側が責任をもって答えを出してくれるので、取締役は「監督」に専念できますし、会議の回数も減り、意思決定のスピード化と効率化が図られたと感じます。経営会議についても、最近は執行役がそれぞれの立場で責任をもって、より活発に議論を交わすことで、必ずしも「全員賛成」で議決されるとは限らなくなりました。

津田:

現在も、従業員の中には「取締役になることイコール、偉くなること」というイメージを持っている者もいて、従来の意識がまだ残っているように感じます。ガバナンス改革は一朝一夕にはいきませんが、体制が変わったことで、望ましい方向に向かって着実に前進しています。

テーマ2 2020年3月期における問題意識

前年度、指名委員会と監査委員会の長として、どのような問題意識を持って取り組んだのか。

川原:

監査委員の立場でお話しします。上場会社で、海外子会社において不適切会計の事案が多発していることを受け、前期は「グローバルな内部統制の強化」が重要なテーマでした。国内では経営監査室が中心になって子会社監査役と定期的にミーティングを開催し、事例を共有するなどの取り組みを実施した結果、徐々に改善しており、手ごたえを感じています。国内のグループ会社の取締役・監査役の人事についても、その会社にとって本当に役に立ち、プラスになる人材を抜擢するよう、当社のトップから直接指示されるようになりました。他方、海外については、まだ課題が残っています。それぞれの地域でカルチャーなどが異なり、見えづらいところがあります。現地へ監査に赴き、パイプができればフランクに話ができるようになるのですが、まだすべての海外子会社・関係会社とその関係が構築できたわけではありません。

津田:

川原さんがおっしゃる通り、海外の内部統制については課題がありますね。調達部門の担当執行役員にフランスの子会社からエルベ・ブルロ氏を迎えるなど取り組みは進めているものの、本社機能のグローバル化には遅れが見られます。ヘルプラインのような事業以外の情報となると、海外の情報が取締役会になかなか上がってきません。海外におけるコンプライアンスについても、どんなところに問題があって、どういった状況なのか、NTN本社に情報が上がってくるスピードが遅く、問題を把握しづらいところがあります。

川原:

その課題を解決するために、現在、海外の内部統制を担当する課からNTN本社の海外地区担当執行役に情報を上げるような道筋を作っているところです。

津田:

手厳しいコメントかもしれませんが、他の面でも、トップが意思決定したものが現場へ届き、実現される速度が遅いと感じます。例えば「設備投資を抑制する」と決まったのに、なかなかそれが実行されないなど、ブレーキが効きにくいのかなと思うこともあります。そういった状態であるなら、逆に、アクセルをかけなければならない時にも、かかりにくいのではないでしょうか。在庫にしてもそうです。削減が決まっても、なかなかスピーディーに進まないように見えます。生産工程が長くて細切れということがあるにせよ、伝達に時間がかかったり、重要性が伝わらなかったり、またそれぞれの組織が自律的に考えて行動できていなかったりして、「制動」に時間がかかっているように思えます。

テーマ3 取締役に求められるもの

将来の経営を担う、未来の取締役を育てるために何を行っているか。また、取締役と現場との間に信頼感を醸成するために必要なものは何か。

津田:

ところで、指名委員会では「後継者の育成」が大きな課題だと考えています。次世代ではなく、次の次、さらにその次をどう育成していくかということです。事業スキルに関する教育は十分に行っているのですが、大きなテーマでディスカッションする能力の育成や、マネジメントに問題意識を持たせるような教育については強化が必要です。50歳前後の層を対象として、国内・グローバルでどのような能力が必要で、それらを育てるためにはどのような教育をしていくのが良いのか、現在、見直ししているところです。また、取締役が持つスキルが株主や第三者にも分かるようにスキルマトリックスを作成しました。

川原:

第121期株主総会(2020年7月開催)の『招集ご通知』にも、取締役候補者のスキルマトリックスが掲載されていますね。

津田:

このようなマトリックスを用いて後継者候補のスキルをチェックして、偏りがある場合に育成を行うなど、各人のスキルを強化したいと思っています。ただし、チェック欄の「〇」が多ければいいというものでもなく、取締役や執行役になる人には少なくともひとつの分野では深い造詣を持っていただきたいです。リーダーのベースとなる、人からの「信頼」を得るためには、「この人は第一人者だ」「この人には勝てないね」と評価してもらえるような、卓越した能力を身につけることも大切だと思います。

川原:

「信頼感」ということで付け加えますと、現場監査の結果を取締役会に報告する際には苦言を呈するのではなく、事実を率直に伝えるよう心がけています。また、監査の最後に「今のNTNをどう思いますか。何が必要でしょうか」と聞くようにしています。監査の対象となるのは事業所の所長や子会社の社長などですが、それぞれ様々な想いを抱えていますし、「NTNは一体、どこに向かっていくのだろう?」といった声も聞いています。そういった声についても取締役会などの場で報告し、共有しています。監査の際、現場の悩みを聞き出した以上、何らかの方法によって問題解消をフォローすることが重要だからです。逆に、取締役・執行役の想いが現場に伝わっていないと感じれば、監査の場でそれらを伝えることもあります。そういった取り組みを通じて、現場が困っていること、NTN本社の考えていることがお互いに伝わり、理解し合えるようになれば、監査の役割を果たすことができていると思います。組織をなめらかにすることも監査の重要な務めだと考えています。

改革の着実な推進によって企業価値を高めていきます。

テーマ4 NTNの再生に向けて

2020年6月、「NTN再生のシナリオ」を発表し、現在は2024年3月期を最終年度とする中期経営計画を策定中だが、これからどのように再生を図ろうとしているのか。

津田:

2020年3月期の業績は大変厳しい結果でした。設備投資からキャッシュが想定通りに入ってこないなど、当初の想定と実績に乖離が生じていましたし、加えて、新型コロナウイルスの影響もあり、減損が発生してしまいました。

川原:

前期は売り上げが伸びない中、和歌山県に新工場をつくったことが負担になっていますが、これは耐震対策や生産再編が目的であり、最終的にはやりきらなければなりません。津田さんが先ほどお話しされていた通り、事業部縦割の「縦軸」が強く働いてしまい、「案件が決まっているのだから、投資しなければならない」という事業部の想いが先行して、当初の見積りが甘かったり、事後でのリターンの検証がきちんとなされていなかったりしたところがあります。そういった場合、その事業を継続していくのか、ストップするのか、どのようにコントロールしていくのか、議論ができていなかったと思います。設備投資へのフォローをどうするのか、今一度、確認していきたいところです。

津田:

そうですね。業績悪化の責任は私たち取締役にもあり、報酬を減額するなど、人事や報酬の面で厳しく評価・査定をしました。問題はこれからです。新型コロナウイルスの影響を脱した後、どのように業績を上向きにしていくか。現在、次の中期経営計画を策定していますが、社外取締役としてどのようにコミットしていくかが重要なところですね。

川原:

最近では、収支見積りやマーケットの将来性も含めて合理的に説明しないと、投資が認められなくなりました。ようやく規模からキャッシュ・フローや利益を重視する考え方へ変わってきました。財務本部・経営戦略本部・生産本部・CSR推進本部をはじめとする「横軸」が機能し始めた成果だと思います。事業本部の個別最適から、「横軸」による優先順位も踏まえた全体最適の発想が定着しつつあると感じています。私自身は、最も優先されるべきなのは、キャッシュ・フローだと考えています。投資がキャッシュを生んでいない大きな理由のひとつとして、先ほどのお話にあったように、在庫がなかなか減らないことにあります。在庫が減らない理由は、製造前工程を自前で抱え込んでいることにあると思います。本来、前工程を抱えることは利益も囲い込むことになるはずですが、投資や在庫の負担の方が大きくなっていることが問題です。

津田:

最近になって、生産改革の発想が受け入れられ、外注化やファブレスによって、製造前工程を縮小・削減する考え方が浸透してきましたね。

川原:

その通りです。確かに多額の損失を出しましたが、その中には、これまでできなかった、「出血」を伴うような改革も含まれており、その点では心強く感じています。これからの投資は「規模」を追うのではなく、「きちんとキャッシュが残るかどうか」で判断すべきですし、すでに実行された投資についても事後の検証が必要です。常勤社外取締役として、今後、そういったことも強く提言していきます。

津田:

先ほど「ブレーキのききにくさ」をお話しましたが、ただでさえ製造工程が長いのに、工程をすべて自前で持つこだわりもあり、中間財として在庫を多く持ってしまう状態に陥っていました。ブレーキをかけても、工程が長く、途中途中で在庫が団子状態になってしまっていたのです。この点を解消するために、中間財を持たないようにする生産改革の取り組みが進み始めています。

川原:

ガバナンス改革によって、生産本部担当の執行役が注力できるようになり、生産改革に弾みがついた面もありますね。

津田:

執行役の意を受けて、基幹工場の若手が中心になって生産の合理化を進め、さらにそれを他の事業所にも展開する動きがスタートしています。取締役として、このような芽を摘まないようにして、しっかりサポートしていきたいです。生産設備の投資判断はとても重要です。

川原:

顧客から要求されると、「この案件は利益が薄くても、それをとることによって、先のビジネスが拡がる」ということで、収支に無理のある投資につながってしまうこともあるようです。

津田:

コスト競争力が弱いといった弱点があると、そのような発想に陥りがちになります。メーカの要求が自社の戦略と整合しないのなら、断ってもいいじゃないですか。自社の弱点を克服して、他社に負けない力をつけることがまず何より重要だと考えます。そのために、生産改革、販売改革をはじめとする合理化をどこまでやりきるか、これに尽きると思います。

テーマ5 次代を見据えての課題

新型コロナウイルス感染症への対応として、どのような課題が残っているのか。次の時代を見据えて、どのような取り組みを行っていくのか。

津田:

リスクマネジメントの体制は整えていましたが、新型コロナウイルスのような感染症の流行まで想定していたかと言えば、詳細にはできていなかったと思います。とはいえ、NTNはすぐに対策本部を立ち上げるなど、従業員の安全確保やテレワークの推進をはじめ、スムーズに対応したと思います。今回のクライシスのマネジメントに対する第一段階の対応として、合格点をつけたいです。

川原:

私も津田さんと同様の評価をしています。世界的なパンデミックという、これだけの事態が生じた中で、いち早く「従業員の健康と安全を最優先」と位置付け、社長をトップとした中央対策本部が、情報の収集や各種の対策を一元的に管理することができています。これまで人事部主導のもと「働き方改革」を推進し、在宅勤務を導入していたことも功を奏しました。今後は、時間外管理や評価の仕組みなど、表面化してきた課題をいったん総括して、制度へ組み込んでいくことが大事だと思います。また、サプライチェーンの維持については調達本部がフォローしていますが、新型コロナウイルスの影響がどこまで及ぶのか慎重に見極めていく必要があります。また、これだけ財務内容が痛んだわけですから、世の中の見方が厳しくなっていることを意識して、各ステークホルダーに「現状と目指しているところ」の説明責任を果たして、確実に結果を出していかなければなりません。

津田:

サプライチェーンにおいて、激動する社会情勢も考慮してNTNがどのような立場をとるか、大変重要な問題だと思います。昨今、表面化している米国と中国との対立も絡めて検討する必要がありますね。

川原:

設備投資の話に戻るのですが、これまで十分とはいえなかった、「老朽化設備の更新投資」「固定費の削減につながる合理化投資」にも予算を割いていくべきです。新型コロナウイルスの影響もあって、設備投資にかけられる予算の規模が縮小した場合にも、それらの投資が損益分岐点の低減に貢献するのではないでしょうか。古い設備を使っていれば一見、コストが抑えられているように見えますが、結果として、品質問題が起きたり、生産性が上がらないといった問題が生じます。そういった問題が起きないよう、コントロールしていく必要があると考えています。

津田:

執行役が現場に丁寧な説明をすることによって、川原さんがおっしゃった問題も、より迅速に対応できるようになるのではないでしょうか。今が改善のチャンスだと言えますね。

川原:

長期的な視点から申し上げると、NTNはマテリアリティの特定を進めているところです。NTNが社会から求められる企業であり続けるために、重要な作業だと言えます。

津田:

マテリアリティは、最初からきっちりしたものを作ろうとせず、ラフな状態のものから始め、状況に応じて更新していくのが良いかもしれません。そして、まず、経営トップがその意義をきちんと理解することが肝心だと思います。中期経営計画においてもマテリアリティを織り込んでいくことになるでしょう。

津田川原:

2020年3月期は厳しい業績となりましたが、事業の選択と集中を進め、企業価値を高めていく所存です。この対談でお話したように、ガバナンス改革の推進などによって、NTNの再生の歩みは着実に進みつつあります。私たちはこれからも社外取締役として経営をチェックし、NTNの歩みをしっかりサポートしていきます。

新任社外取締役のメッセージ

写真:執行役常務 CSR(社会的責任)推進 本部担当 白鳥 俊則

元 日本電気株式会社
執行役員常務
現 NTコンサル代表
西村 知典

私は前職において、事業部門の執行責任者として、顧客と目指すゴールを共有し、多様なステークホルダーとともに新たな価値を創造してきました。このたび社外取締役の拝命にあたり、私は株主さまと「持続的成長」というゴールを共有し、社内に埋もれている様々な資産と社会が求める切実なニーズを結びつけて、NTNの新たな「価値創造」や「ブランド力強化」に貢献することを約束いたします。
わが国は少子高齢化が世界で最も進んでいる、いわば「課題先進国」です。また近年の大規模災害や新型コロナウイルス感染症の発生など、社会を取り巻く環境は大きく様変わりしています。単なる業務の効率化、目先の働き方改革だけでなく、働き手の高齢化に伴う次世代への技能継承や、IoTを活用しAI技術を効率良く利用することで経営のスピードアップを行うことが、当社の「持続的成長」には必要です。また、今後いずれの国もが直面する高齢化社会という世界的課題を見据え、当社ならではの価値創造のあり方を事業部門とともに見出し、産官学連携や異業種交流などを通じて、新たな事業分野での社会価値を創造していくことが、株主さまの利益に叶うものと信じております。

写真:執行役常務 CSR(社会的責任)推進 本部担当 白鳥 俊則

現 株式会社ドワンゴ
取締役
大塚化学株式会社 顧問
小松 百合弥

かつて、コーポレートガバナンスとは、「株主重視」と同義でしたが、株主偏重による弊害への反省からESG経営の重要性が高まり、ステークホルダー(株主、従業員、顧客、社会など)間のバランスを考慮し、持続的な成長を追求して経営を推進することが、現在のコーポレートガバナンスだと考えております。
私は、日本および米国で、20年以上機関投資家として日本およびアジア企業の分析・評価・投資をしておりました。当時、米国発の行き過ぎた株主重視の姿勢は長期的な企業成長にとってマイナスであると感じ、金融を離れました。その後、事業会社で執行役員・取締役として、株主の視点を維持しながら、他のステークホルダーのインタレストを満たす困難を、身をもって経験しつつ、バランスを模索しながら経営に携わってまいりました。投資家および事業会社取締役での経験を活かし、社内取締役とは異なる視点で、当社のコーポレートガバナンス向上と、企業価値向上に貢献したいと思います。
また、新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、当社経営に大きな逆風ですが、大きなチャンスでもあります。私が取締役を兼務しておりますIT企業では、約8割の社員が恒常的テレワークに移行し、契約書や経費精算など「紙」で処理していた業務のデジタル化、業務手順の見直し、AIを活用した効率化などを推進しており、同様の変革を進める当社でも、知見を共有し、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に尽力してまいります。